春夏通じて初出場での優勝だけでも快挙なのに、春の選抜史上最速となる創部わずか3年目での全国制覇を成し遂げたチームがある。2004年第76回大会の済美(愛媛)である。
今は亡き名将・上甲正典監督が率いたこのチームで2年生ながらエースナンバー1を背負っていたのが福井優也(広島東洋)だった。ただ、この年の済美は福井よりもむしろ全国レベルの打撃力が評価されていた。前年秋の四国大会では明徳義塾(高知)などの甲子園実績校をその打棒で粉砕して初優勝を果たしたほどである。
そして、その自慢の強力打線が初めての甲子園でいきなり火を吹いた。初戦で9‐0の大勝を収めたのだ。対戦相手は同じく初出場ながら関東大会王者に輝いた土浦湖北(茨城)。実力校同士の対戦と注目を浴びたが、済美打線が前評判通りの打棒の鋭さを発揮。それに負けじと福井も3安打10奪三振の完封勝ちを収めたのである。福井は続く2回戦の東邦(愛知)戦も完封。3回裏に3番・高橋勇丞(元・阪神)の中前適時打で挙げた虎の子の1点を見事に守りきっての白星であった。
一転、準々決勝の対東北(宮城)戦は大苦戦となった。東北のエースは前年夏の選手権の準優勝投手・ダルビッシュ有(シカゴ・カブス)。このダルビッシュが右肩のハリで先発を回避したものの、打線はこの日東北の先発・真壁賢守(ホンダ)を打てず2得点のみ。守っても福井が8回を投げて被安打8の6失点。2‐6の劣勢で9回裏の最後の攻撃を迎えていた。そこから何とか2点を返すも2死無走者となり、まさに絶体絶命の状況へと追い込まれてしまう。ところがここから衝撃の幕切れが待っていた。連打で2死一、二塁として、続く3番・高橋がまさかの逆転サヨナラ3ラン。7‐6と劇的な大逆転勝ちで、済美は初出場ながら、堂々ベスト4進出を果たしたのである。
準決勝の明徳義塾戦は、済美の打棒が序盤に爆発し、3回までに6‐0と大量リード。ところが好投していた福井が6回裏に突如乱れ、6本の長短打を浴びて一気に同点に追いつかれてしまった。それでも福井は7回以降、粘りの投球で勝ち越し点を許さない。結局、8回表に相手のミスでもらった決勝点を守り抜いて7‐6。初出場ながら、済美はついに決勝戦へと進出したのである。
迎えた決勝の相手は強豪・愛工大名電(愛知)。済美打線はこの試合でも序盤から得点を挙げ、主導権をガッチリと握った。終盤にも追加点を挙げ、粘る名電を最後は辛くも1点差で振り切り、6‐5で勝利。こうして済美は創部わずか3年での全国制覇を成し遂げたのである。さらに付け加えると上甲監督は1988年第60回の春の選抜でも同じ愛媛県勢で母校でもある宇和島東を率いて初出場初優勝を成し遂げている。この優勝はそれに続く2校目での初出場初優勝という快挙達成でもあったのだ。
(高校野球評論家・上杉純也)=敬称略=