昨シーズンは自己最多の9勝を挙げ、先発ローテーションの役割を果たした広島カープの福井優也。今シーズンは自身初となる2ケタ勝利を狙うも7月まででわずか2勝と結果を出せずにいる。だが、そんな福井は高校2年の夏、甲子園史上初となる大快挙を目指すチームのエースとして聖地のマウンドに立っていた。
04年の春の選抜に済美(愛媛)の2年生エースとして甲子園に初出場した福井。なんとこの大会で済美は大会史上最速となる創部3年目での優勝を遂げる。もちろん、初出場初優勝。その中心にいたのが福井だった。
福井は初戦から決勝戦までの全5試合に先発し、4完投で4勝を挙げた。44回を投げ、被安打32、奪三振43、失点17、自責点13で防御率2.66。初戦&第2戦は鮮やかな連続完封劇を演じている。
その福井擁する済美は同年夏、今度は「有力校」として甲子園に帰ってくる。狙うは史上6校目、しかも春夏ともに初出場での春夏連覇という過去に例のない大偉業である。
初戦の相手は“みちのくの剛腕”佐藤剛士(元・広島)を擁する秋田商。福井との投げ合いが期待されたが、予想に反して試合は打撃戦に。結果、11-8で打ち勝ったが、福井は9回完投も171球。被安打15と絶好調時とはほど遠い、不本意な出来に終わった。それでも以降の3試合は6-0、2-1、5-2と“らしさ”を取り戻し、「さすが」の決勝進出を果たす。
史上初の“春夏初出場での春夏連覇”まであと1勝。世間もその偉業を疑わなかった。
しかも決勝の相手は、強力打線を武器に勝ち上がってきたとはいえ、過去に優勝のない北海道勢。ところがその伏兵、駒大苫小牧(南北海道)が福井に襲いかかった。
済美は3回表まで5-1とリードするも、5回終了時にはまさかの6-6の同点に。6回表に3点を勝ち越すが、その裏に福井は2ランを浴びKOされてしまう。この流れを2番手のピッチャーも止められず、駒苫打線は毎回の20安打で計13点。済美打線も19安打で応酬するが、猛追及ばす10-13で打ち負けてしまうのだ。
翌05年、駒大苫小牧は稀代のエース田中将大(現・ヤンキース)を擁して2連覇する。しかし、創部3年目で春夏連覇を目指した済美と、真紅の優勝旗を初めて北海道へと導いた04年の決勝戦こそ、高校野球が新時代へと突入したことを全国のファンに知らしめた一戦だったといえる。
(高校野球評論家・上杉純也)