週刊アサヒ芸能連載「カネを動かす実戦心理術」でもおなじみの向谷匡史氏が2008年に刊行した「ヤクザの人生も変えた名僧の言葉」が、このほど文庫化(幻冬舎アウトロー文庫)された。向谷氏は、安藤組組長から映画界に転身し、俳優や映画プロデューサーとして活躍した安藤昇氏(2015年没)らとの出会いをきっかけに、自身も週刊誌記者から作家となり、さらに浄土真宗の僧侶、保護司としてヤクザ社会の人々と交流してきた。仕事(シノギ)や組織の中での生き方、さらに生死と向き合わざるをえないヤクザたちの人生を変えた仏教の名句・名言とは何か。このことを探ることで、現代を生きるサラリーマンにも通じる心のサプリメントとしたい。
ヤクザを変えた仏教の名言を集めた理由を向谷氏は次のように説明する。
「ヤクザというのは、煩悩が凝縮した世界です。高級車に乗り高級時計を身につけ肩で風切って歩く。見栄であるとか、金や名誉という一般人の世界でも持っている欲だけれど、それが凝縮されている。そういう彼らが、名僧たちの警句に触れて考えるところがあるというのを、私は週刊誌の記者時代から目の前で見てきた。彼らでさえ変える仏教の言葉は、我々一般人にとっても意味を持ってくる」
そのうえで、向谷氏は、
「ヤクザというのは、見栄を張るということがシノギに直結しています。一般のサラリーマンたちも同じことで、バリバリやっているヤツのところに仕事やお金も集まってくる。『ヒマで何かない?』なんて言ってたら仕事なんか来ませんよ。年を取って年金暮らしになったりするとジャージを着てゴロゴロする人も多いけど、あれは対外的に見栄を張るという意識がないからです。自分をよりよく見せようという前向きな意識があれば、見栄にこだわるし、見栄にこだわれば前向きな意識がついてくるものです。ヤクザもカタギも、男は見栄を張らなくなったら終わりです」
見栄を張るのにいちばん手っとり早いのは、オシャレだという。
「別に高いものを着る必要はないけれど、オシャレをして自分を駆り立てていく。持ち物でも100円のボールペンじゃなく、ちょっと高価な万年筆を買ってみることで、テンションが上がって何か書いてみたくなる。気に入った見栄えのいい靴やズボンをはいたら歩きたくなる、出かけたくなる。男は中身が大事と言われるかもしれないけれど、見栄という煩悩は大事であり、生きる原動力なのです」(向谷氏)