朝起きてまずやることといえば、洗顔と歯磨き。多くの人にとって、何気ない日々の習慣である。だがそのやり方が間違いで、実は命の危険に晒される重大な病気を誘発するとなれば、直ちに改める必要に迫られよう。目からウロコ、従来の常識を専門医が覆す。
健康のバロメーターと言われる歯・目、またはあの部分になんとなく自信がなくなってきた記者、51歳。
ある日のこと。朝食のソーセージをかじった瞬間、グキッという音とともに、口の中に鈍い痛みが走った。3カ月ほど前からグラグラしていた左上の奥歯だ。慌ててソーセージを吐き出す。するとそこには、無残にも抜け落ちた歯が‥‥。ヤバイ、これで3本目だ。記者と歯周病との戦いは、足かけ10年。グラグラし始める⇒歯科医で治療&歯磨き指導⇒多少回復するものの、再発。ここ数年、それの繰り返し。しかもこれといった痛みがないため、進行の度合いがわからない。それが歯周病の怖さでもある。
日本人は朝晩の歯磨きを欠かさない、世界でも類いまれな国民だと言われる。にもかかわらず、それに反して驚くべき勢いで増え続けているのが歯周病だ。厚生労働省が実施している平成26年の「患者調査」によると、「歯肉炎及び歯周疾患」の総患者数(継続的な治療を受けていると推測される患者数)は331万5000人。この数は、前回の調査より65万人以上も増加している。
テレビでは手を変え品を変え、「歯周病予防」をうたった歯磨き粉のCMが流れ、それに連動するように、電動歯ブラシの売り上げも急伸。反して、歯周病患者が増え続ける理由はどこにあるのか。
「歯周病と歯磨き」の疑問を解消すべく記者が訪ねたのは、「歯周病が歯医者で治らない理由」(愛育社)の著者であり、歯周病治療の第一人者である籾山歯科医院(群馬県みどり市)の籾山道弘院長。開業以来30年以上、抜歯ゼロを目標にした臨床を行う歯科医である。そもそも歯周病って何なんですか?
「簡単に言うと、歯磨きによるバイ菌の磨き残しが積もり積もって、それが歯の根元や周りに残り細菌感染を起こした状態。ただ、人間の体は外部から異物が入り込んできた場合、免疫機能でやっつけようとする。例えば風邪をひいた時にはパッと熱を出してウイルスを撃退するでしょ。あれと同じ。ただ、その状態が延々と続くと、やっつけきれなくなり、菌から逃げなきゃと、自分の骨を溶かして逃げようとする。それが歯周病で骨が溶けるメカニズムなんです」
骨を溶かす細胞は破骨細胞と呼ばれ、通常、破骨が終われば骨芽細胞が新たな骨を作り、修復してくれる。だが磨き残しが積もり積もると、免疫はひたすら叩かれ続け、造骨細胞が力を発揮する時間がなくなってしまう。だから骨が溶け続けるというのだ。
しかし‥‥骨が溶け続けるのに痛みを感じないのは変ではないか。
「例えば胃が痛くても、慢性化すると痛みを感じなくなるでしょ。それと同じで、仮に体の中に小さな炎症があっても、それが慢性的に続くと、重症化しないかぎり、自覚症状がなくなってしまうんです。だから歯周病の場合も歯茎からの出血はあるものの、痛みは数日で治まってしまうため、自覚症状が薄いというわけです」
まさに、とんでもないサイレントキラーだ。