「北郷さんって、たけしさんに本気で怒られたことってあるんですか?」
わりとよくされる質問です。こういった時、芸人として最高の答えは、信じられないミスをして、映画「アウトレイジ」で殿が何度も見せた、あの恐ろしい形相で怒鳴られ、
「いや~、あの時はもう弟子を辞めようかと思いました」
そう答えるぐらいの“叱られエピソード”の1つでもあるのが完璧なのですが、殿の弟子になって20年あまり、まだ、辞めてしまいたいほどの“怖い叱られ”はなく、何とか今日まで過ごしてまいりました。
ただ、誤解しないでいただきたいのは、わたくしが決して人間的に優秀だから叱られなかったわけではなく、本当に、たまたまなのです。
その証拠に、殿の付き人になる前、ダンカンさんの付き人時代には、たび重なるミスにより、軍団の弟子史上、始まって以来の「自宅謹慎」を宣告された過去もあり、自他共に認める、かなりの粗悪品です。まー、わたくしの“具体的な粗悪ぶり”はまたの機会に書くとして、殿です。
以前、殿に「殿は深見千三郎師匠に、マジで叱られたことってあるんですか?」と聞いた時のこと。殿はまず、
「頼まれた馬券を飲んだり、悪さばっかりしてたから、しょっちゅう叱られてたけどな」
と、前置きを入れたうえで、
「弟子になってすぐ、当時売れてた○○○を演芸場で観て、『師匠、あれのどこが面白いんですか? あんなのだったら、誰でもできますよ』って言ったら、『バカ野郎! お前、何考えてんだ! 天下の○○○さんに向かって、なんてこと言ってんだ!』って、えらい怒られたことあったな」
と、懐かしみながら答えてくれたことがありました。
修業の身でありながら、師匠の前、当時の売れっ子漫才師を“ディスる”わけですから、改めて殿の“持って生まれた鼻っ柱の強さ”にシビれてしまいます。が、ただシビれさせただけで終わらせないのが殿です。
いついかなる時でも、何を聞かれても必ず“しっかりとオチのある漫談”に持って行くのが殿です。
この時も、
「叱られたっていえばあれだよ。フランス座に入ったばかりの頃よ、踊り子さんの入浴ショーの手伝いやらされたんだけど、沸騰したお湯をうめないでそのままタライ入れて出したら、お湯が熱くて踊り子さんがなかなか入れなくてよ、踊りながら何度も足で温度を確かめちゃ、『あちっ!』なんて声を漏らして、タライの周りをぐるぐる回ってんだよ。それで結局、最後までお湯に浸からないままショーを終えて戻ってきたら、『たけ! 何だい、あの熱いお湯は! あたしゃ、五右衛門じゃないんだよ!』って、えらい剣幕で叱られたことあったな」
と、数多ある“浅草修業時代漫談・踊り子編”でフィニッシュする、いつもの殿なのでした。
ビートたけしが責任編集長を務める有料ネットマガジン「お笑いKGB」好評配信中!
◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!