「サッカーな、面白いんだけどよ、あのPK欲しさに、ぶつかってもねーのに『うわ~、やられたぁ~』ってアピールするのなんとかなんねーか? スローモーションで見たら全然当たってねーのに、ギャーギャーやるだろ。それで審判が取り合わないと『あっ、ダメですか? はい、わかりました』って何事もなかったように元気に走り出すだろ? あれなきゃ、もっと面白れーのにな」
フランスの優勝で幕を閉じた、今回のサッカーワールドカップ。決勝トーナメントが始まってからというもの、殿は連日深夜の放送をライブで見ては翌日、何かと感想を伝えてきたのです。で、一番多かった感想が、冒頭の「嘘っぱちアピール問題」についてでした。ただ苦情だけで終わらないのが殿です。この時も、
「あーいうヤツ、よく浅草にいたよ。すれ違いざま、ちょっと肩が触れただけで、『あ~! やられた~。お~いてて、こりゃ骨折してるな。おい、いくらかよこせ』っていうオヤジ。うん、いたよ。浅草のネイマール」
と、このたびのワールドカップで、とりわけ嘘っぱちアピールが目立った、ブラジルのストライカー・ネイマールの名前をさっそく取りこみ、爆笑をかっさらっていました。しかし、「浅草のネイマール」とは、実にコミカルで響きのいい、人に言いたくなる名称です。
ちなみに殿はこの“どこどこの○○○”といった例えが好きで、以前、
「お前、知ってる? 川崎のイルカちゃん」
と、いきなり切り出し説明してくれたことがありました。なんでも、川崎のソープランドに勤めるその子は、お客さんと一緒に泡風呂に入ると、息の続く限り、潜っては体の至るところを舐め、潜っては舐めを繰り返す特技があって、まるでイルカのように水の中で自由に動きまわり、息継ぎのため顔を出す時は、毎回どこから顔を出してくるのか予測が立たなかったそうです。そんな妙技を体感した殿はいたく感心し、「うん、さすがプロ。川崎のイルカちゃん」と名付けたとか。
で、浅草のネイマールでどっとウケたこの日の殿はさらに、「あれだよ。昔よ、島根町(殿の生まれた町、足立区島根)のガンジーってのもいたな」と、説明を聞く前からすでに面白いとわかる、絶妙な名前を出してきたのです。
なんでも、殿が子供の頃、いつも上半身裸でゴザの上に座り、小銭を恵んでもらうのを仕事とするホームレスがいて、子供たちがそのオヤジをバカにして小石を投げたり、棒でつついたりと、何かとからかったそうです。が、
「だけどよ、何やっても反撃してこないんだよ。ただただ無抵抗で、ニタ~って笑ってんだよ。これが有名な島根町のガンジーだよ」
と、殿は実にうれしそうに説明を締めくくると、ややあってから、
「おい、忘れちゃうからよ、今の話、ちょっとメモっといてくれな」
と指示を出し、この日のサッカー話を切り上げたのでした。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!