そもそも実際に存在した人物なのか。そんな疑問からスタートする剣豪の「生まれ故郷」を訪ね歩き、「兵法書」をしたためたという洞窟に入ってみる。そうしてガッツ流の実地検証と考察を経て、導かれた結論とは──。
剣豪といえば真っ先に思い浮かぶのは、宮本武蔵だな。日本では古今東西、幼稚園児以外は知らない人はいないっつーぐらい有名だからね。それとともに、武蔵と巌流島で決闘した佐々木小次郎だね。この2人の剣豪を語るうえで、ガッツ流では率直に言って、「宮本武蔵や佐々木小次郎という人は本当に実在したのかな」という疑問から入ってみるのよ。
確かに2人に関する資料は残ってるけれど、大昔のことだから、本当に実在した人物かどうかは、証明しろと言われても難しいわけだよ。それに近いモデルはいたんだろうけど、「じゃあ本当に言い伝えられてるような人物だったのか」と言われたらわかんないわけでしょ。武蔵が書いたという「五輪書」だって自筆本は残ってないし、弟子が書いたとか何とかいろんな説もあって、本当に本人が書いたかどうかもわからない。巌流島にしても、何のために決闘したのかはっきりわかってないからね。巌流島で小次郎は長い刀で、武蔵は船の櫂を削った木刀で戦ったっていうけど、櫂で勝ったなんて聞くと、「そうかい?」って言いたくなるよな。「じゃあ、武蔵は本当にいたのか。本当にいたとしたら、実際はどんな人物だったのか」ってことになるけど、作家が昔の偉人伝を書く時には、その偉人の生まれ育った故郷をまず見るそうだね。地域の風景や土地柄を頭に入れながら、その人物を描いていくんだな。
だから俺も「じゃあ、武蔵の生まれた場所に行ってみよう」ということで、行ってみたことがある。武蔵が育ったのは今の岡山県、当時の美作国の宮本村っていうところ。役所の人に案内してもらって高台みたいなところから見下ろして「あそこら辺だ」って言うから「あそこら辺じゃわかんねーから近くまで行こう」って行ってみたら、「ここら辺だと言われてます」って。
だから俺は役所の人に聞いたんだよ。
「本当に武蔵はここで生まれたのか」
すると役所の人が、
「はあ‥‥?」
つったんだからさ。「アンタ、何聞いてんの」みたいな顔されて。確かに役所の人も困るだろうな。だから俺も「そうなんだろうな」ということにしといたけど。
歴史っていうのはそういうもんだと思うね。そこで突き詰めて「本当なのか、ウソなのか」ってやらずにほどほどのところで手を打っておくのがいい。我々は歴史のプロじゃないんだから「あぁ、そうなのか」と思うぐらいでOK牧場だな。
小次郎の生まれ故郷にも行ったことがある。九州の田川村の添田(現・福岡県田川郡添田町)っていうところだ。そこに英彦山(ひこさん)っていうほどほどの大きさの山があって、その麓の村で生まれたっていうんだな。田畑、山川が広がるのどかな景色だったね。
武蔵や小次郎の時代は今よりもっと何もない田舎だったろうなと想像してみると、その寒村から武蔵、小次郎という、ポコッと突き抜けたのが出たんだなと思って、感慨深かったね。