先のスプリンターズSがその序章だとすれば、今週のメイン、秋華賞が本格的なGIシーズンの開幕となる。女心と秋の空──とは何事も移ろいやすく不確かである例えだが、このGIで絶対視されている桜花賞、オークスの2冠馬アーモンドアイに疑いの目を向けるのは、ほぼ無意味ではなかろうか。
競馬をなりわいにして四十数年になるが、これほどまでに注文をつけることがなく、完璧と言えるような牝馬に巡り合ったことは初めてと言っていい。
あらゆることは相対的だから、これまでの名牝、女傑が現役であったなら、という比較は許されていい。しかし実際に顔を合わせるのは不可能なのだから、これまた「あの馬のほうが強かった」と言うのもバカげている。いやはや、本当に強い。なので穴党の当欄としても、重箱の隅を楊枝でほじくるマネはできない。そもそも徒労である。
確かに、どんなに強くて力量に大きな開きがあったとしても、肝心の仕上がり状態に問題があるのなら、つけいる隙は大いにある。だが、オークス以来5カ月ぶりの実戦とはいえ、その前走後、放牧でリフレッシュ。そのうえでここを目標に逆算されて体調を整えてきた。乗り込み量は実に豊富で、ここ1カ月ほどの稽古の動きは、まず、言うことなし。1週前の追い切りも抜群で、総仕上げになんら抜かりはない。
バランスの取れた好馬体で、滑らかでいて躍動感たっぷりな走り。サラブレッドとして、とにかく非の打ちどころがない、マレなる一頭と言っていい。
競馬は“生き物”ゆえ、不利を被るなどレース中のアクシデントもないとは言えず、「絶対」とは言い切れないが、しかしここは素直に「2着探し」の一戦と見るべきではなかろうか。
02年に馬単が導入されてから、これまでの16年間、その馬単での万馬券は1回(馬連1回)のみ。この間、ファインモーション、スティルインラブ、スイープトウショウ、ダイワスカーレット、ジェンティルドンナなど、勝ち馬は、その後の活躍も目覚ましい。であれば、ますます不動の存在に見えてくるではないか。
では2着候補、その筆頭とすべきは、どの馬か。まず、阪神でのトライアル、ローズSの1、2着馬カンタービレ、サラキアを挙げなければいけないが、アーモンドアイの最強のライバルであるラッキーライラックを含めて、人気、有力どころではおもしろくない。
意外と思われるだろうが、最右翼とみているのはハーレムラインである。
未勝利を勝つまで5戦を要したが、それから3連勝。桜花賞でも穴馬候補として名が挙がったが、さすがに使いづめの疲労から14着と大敗に終わった。が、そのあとオークスに向かわず放牧、休養に充てたのが正解、功を奏した。
5カ月ぶりの実戦となった前走の紫苑Sは5着に敗れはしたが、春とは見違えるほど、すばらしい馬体に成長して戦列に戻ってきてくれた。
田中清調教師も「久々で調整もイマイチ。折り合いを欠く場面もあり、悲観する内容ではなかった」と前走を振り返ったうえで、「心身ともにたくましくなった。変わり身が見込める本番は楽しみ」と、ヤル気をにじませる。
なるほど、中間の稽古の動きは軽快かつリズミカル。仕上がり状態のよさは明らかだ。
近親にトウカイポイント(マイルCS)、名牝ダイナカール(オークス)がいる良血。恐らく2、3番手につけての競馬と思われるが、京都の内回りだけに、先行策でアッと言わせるシーンがあっても不思議はない。