「この瞬間のためだけにそれまでの過程があった」。
2013年の日本シリーズは、最後の最後にまさにそんな展開となった。
セ・リーグ代表は読売ジャイアンツ。かたやパ・リーグ代表は東北楽天ゴールデンイーグルス。読売は指揮を取る原辰徳監督が第1次政権から数えて通算5度目のシリーズ出場を果たし、対する楽天は就任3年目となる星野仙一監督のもと、球団創設9年目で初のリーグ優勝を果たしていた。
特に楽天はエース・田中将大が鬼神のごとき快投を見せ、24勝0敗1セーブで日本プロ野球史上初となるシーズン無敗での最多勝を達成(最優秀防御率と勝率1位も獲得)。難攻不落のこの田中を読売がどう攻略するかが、シリーズの勝敗を決する焦点となっていた。
日本製紙クリネックススタジアム宮城(当時)で開幕した初戦は読売が内海哲也、楽天が新人の則本昴大の先発で始まった。試合は読売が長野久義のタイムリーと村田修一のソロ本塁打で挙げた2点を4人の投手陣の継投で守り切り、2‐0で先勝する。この一戦、読売の4安打に対して楽天打線は9安打を放ったが、チャンスであと1本が出ず、先発の則本を援護出来なかった。痛恨の敗戦であった。
続く第2戦。楽天は田中をマウンドに送る。そしてこの田中がシリーズ初マウンドで快投を見せるのである。何と寺内崇幸のソロ本塁打による1点に抑え、被安打3、毎回の12三振を奪う完投勝利で1勝1敗とタイとしたのだ。楽天打線は初戦、5打数無安打に抑えられた銀次の6回裏のセンター前タイムリーと、続く7回裏の藤田一也のタイムリー内野安打で2得点し、田中を援護。田中も打線に応えるように、4回表の2死一、三塁と6回表の2死満塁のピンチの場面で、いずれも6番打者のロペスを打ち取り、相手に主導権を渡さなかった。そしてこの1勝は楽天にとって日本シリーズにおける球団の初勝利ともなったのである。
こうして1勝1敗でシリーズの舞台は東京ドームへと移ることとなった。その第3戦。楽天は2回表に2死満塁のチャンスをつかむと2戦目でも活躍した藤田と銀次が連続の二塁打を放ち、4点を先制。結局、先発野手全員安打となる13安打を放ち、読売先発の杉内俊哉を2回途中でKOするなど打線で圧倒。投げては先発の美馬学が6回途中まで被安打4、無四球と好投し、5‐1で快勝。2勝1敗として一歩抜け出す形となったのだった。
ここまで3試合を終わって読売は主軸の高橋由伸とロペスが無安打。阿部慎之助も1安打のみと打線が低調だった。そのため打線を組み替えて第4戦に臨んだのだが、これがみごとにハマる形となる。2回を終わって1‐4とリードされたものの、4回裏と5回裏に2点ずつをあげ逆転に成功。直後の6回表に同点とされたものの7回裏の1死一、二塁から寺内が決勝点となるタイムリーを放ち、6‐5で競り勝ったのだ。逆に楽天投手陣は登板した5人の投手が計12与四死球を与える大乱調ぶり。勝敗の分かれ目の一つとなってしまったのである。
こうして対戦成績が2勝2敗となり、どちらが先に王手をかけるか注目された第5戦。試合はこのシリーズ初となる延長戦に突入することとなる。楽天が2‐1とリードして迎えた土壇場の9回裏に読売は1死一、三塁から村田がタイムリーを放ち同点に。だが、なおも続いたサヨナラのチャンスで試合を決めることができなかった。これが結果的に大きく響き、直後の10回表に楽天が1死一、二塁からこのシリーズ大活躍の銀次がセンター前へタイムリーを放ち勝ち越し。この後、ジョーンズにもタイムリーが出て2点差とすると、その裏の読売の攻撃を6回から救援登板していた則本が3者凡退に抑えて4‐2で勝利。ついに楽天が初の日本一へと王手をかけたのである。
続く第6戦はエース・田中が先発するだけに、楽天はここで一気に勝負を決めたいところ。楽天は先発・田中で一気に日本一を狙いに来た。一方、その田中を攻略して逆王手をかけたい読売。先制したのは楽天だった。2回裏の1死二,三塁から内野ゴロと相手エラーで2得点し、日本一をたぐり寄せる。だが、負けられない読売は5回表に反撃し、田中を攻略。この試合開始までポストシーズン無安打不調にあえいでいたロペスが同点の2ランを放つと、この後に高橋由伸のタイムリーも飛び出し、3点を挙げ逆転したのである。読売は6回表にも1点を追加。この2点のリードを先発の菅野が7回被安打3、2失点の好投で守り切り、4‐2で勝利。逆王手をかけるとともに今シーズンの公式戦、ポストシーズン通じて無敗だった田中に初黒星をつけることに成功したのである。
3勝3敗で迎えた第7戦。雌雄を決する最終決戦は牧田明久のソロ本塁打などで3‐0とリードし、9回表の読売最後の攻撃を迎えていた。その最後のマウンドに前日160球で完投したばかりの田中がいたのだ。球場中が登場曲であるFUNKY MONKEY BABYSの「あとひとつ」を大合唱する中、仁王立ち。2安打を許したものの、最後は代打の矢野謙次を空振り三振に仕留め、胴上げ投手に。この瞬間、楽天の初の日本一が決定したのである。それは同時に2011年の東日本大震災で暗く沈んでいた東北に“希望の灯り”が灯った瞬間でもあった。そしてまた、楽天を率いた星野にとっても現役時代から通じて初、監督として4度目の日本シリーズ挑戦で初めて勝ち取った日本一でもあったのだ。
(野球ウォッチャー・上杉純也)