平成になって、日本から世界で活躍できるフィギュアスケーターが次々と頭角を現し始めたのは、伊藤みどり選手があこがれの存在となり、スケートの裾野が広がったことがその要因の一つだろう。しかし、それだけではない。
「その伊藤が、アルベールビル五輪で金メダルを逃したことがきっかけで、日本スケート連盟が危機感を持ったこと。そしてもう一つは、長野オリンピックの開催です。伊藤に続くトップ選手を育てる必要があると痛感した日本スケート連盟が、若い選手の発掘と養成のため『全国有望新人発掘合宿』、通称“野辺山合宿”を開催するようになるんです。『第二の伊藤みどりを育てよう』というスローガンのもと、日本全国から有望な小学生スケーターを集め、1992年に第1回の合宿が行われましたが、その1期生の1人が荒川静香です」(スポーツライター)
基本的な運動能力を測る体力測定で、持久力、瞬発力、パワー、敏捷性、柔軟性などを判断し、スケートについてももちろんテストが行われ、ジャンプやスピン、ステップなどの技術面はもとより、潜在能力や柔軟性、表現力までが判定され、合宿終了後にシード選手が選ばれるのだ。
さらに海外での試合の経験を積ませるため、ジュニアの大会への派遣も行われるようになった。現役選手が自費で遠征していた佐藤信夫コーチの時代と比べれば、隔世の感があると言えよう。
これを期に世界で頭角を表す選手が登場してくることになるのだが、これこそ日本スケート連盟が幼いうちに有望な選手を見つけ出し、磨きをかけていった成果なのだ。
「世界選手権だけで見ても、女子ではトリノオリンピックで優勝した荒川静香をはじめ、村主章枝、佐藤有香、安藤美姫、浅田真央、鈴木明子、樋口新葉、宮原知子。男子では、本田武史、高橋大輔、小塚崇彦、町田樹、宇野昌磨、そして羽生結弦と、表彰台にのった選手だけでも、これだけの選手が記録に刻まれるようになったんです。また、この選手たちは世界のフィギュアスケート界にも大きな影響を与えています。伊藤の3回転アクセルジャンプの美しさと技術の高さがきっかけで、エレガントさ、優雅さといった芸術性重視だった女子のスケート競技にジャンプの要素が多く取り入れられるようになりました。また、高橋の華麗なステップやダンスのような音楽性の高さは、男子のスケートの技術をまたひとつ高いレベルに押し上げたと言えるでしょう。それは現役の選手だけに限る話ではありません。佐藤有香はアメリカでコーチとして活躍していますし、海外の選手から日本人コーチが振付を依頼され、指導を頼まれるケースも増えています。選手のみならずOB選手がまた世界のフィギュアスケート界で大活躍をする時代になっているのです」(前出・スポーツライター)
まもなく令和の時代が始まる。新しい時代のフィギュアスケートがどんな進化をとげ、どんな風景をファンに見せてくれるのか。楽しみは尽きない。
(芝公子)