慢性的な腰痛に悩まされている人は少なくないだろう。「慢性腰痛」は腰痛が3カ月以上続いている状態のことを指している。最近の研究で、30代~50代の都心部の事務職で働く人に多く見られることがわかってきており、その理由として、ストレスやうつなどの「精神的要因」が挙げられる。ストレスや不安などにより、痛みの信号を抑える脳の仕組みが働きにくくなってしまうためだ。
通常は、腰からの痛みの信号が脳に伝わると、脳からドパミン(ドーパミン)という神経伝達物質が放出される。すると、脳内でμ(ミュー)オピオイドという脳内麻薬物質が活性化して神経伝達物質のセロトニンやノルアドレナリンが作られる。これにより痛みの信号を脳に伝える経路が遮断され、本来は痛いはずの腰が、痛みを感じずにすむようになっている。
しかし、ストレスやうつなどの精神的要因が長期間に及ぶと、脳内のドパミンなどが放出されにくくなり、痛みの経路を遮断する仕組みが働かなくなってしまう。つまり、ちょっとした痛みでも強い痛みに感じてしまうのだ。さらに、慢性腰痛は、ストレスの原因を特定できない状態が続くと、かえってストレスをため込むことになり、痛みが慢性化するという悪循環につながりかねない。そのため、医療機関では慢性腰痛の患者に対して精神的要因をチェックする「BS-POP」という質問票を利用して対応している。
慢性腰痛の治療では、ストレスの原因を探り、解消や改善を目指すことが欠かせない。他にも、脳からドパミンが放出されるよう、適度な運動や楽しいと感じることを行うことも大切で、必ずしも患部の治療だけでは治らないことも少なくない。症状が改善されない場合には、痛み止めや、抗うつ薬、抗不安薬などを用いることもある。完治を目指すのではなく、腰痛とうまくつきあい、痛みを軽減させることがポイントになってくるのだ。
田幸和歌子(たこう・わかこ):医療ライター、1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経てフリーに。夕刊フジなどで健康・医療関係の取材・執筆を行うほか、エンタメ系記事の執筆も多数。主な著書に「大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた」(太田出版)など。