依然として続く日本ハム・大谷翔平の二刀流挑戦。初登板では、157キロの速球でファンのドギモを抜いた。一方、野手としても高卒ルーキーながらクリーンナップにも名を連ねる活躍ぶり。はたして、大谷はどちらの道を選べばいいのか。評論家5人が期待のルーキーを丸裸にする。
「野球界には80年間、あんな選手は1人もいなかった」
と、長嶋茂雄・巨人軍終身名誉監督(77)に言わしめたのが、北海道日本ハムファイターズのルーキー・大谷翔平(18)だ。
193センチ・86キロの大型選手という素質のみならず、入団に際して、投打での活躍を認める“二刀流”を球団が容認したことで、専門家からは、批判の声が上がった。“二刀流”反対派の急先鋒は、野村克也氏(77)。先月30日のトークショーでも一刀両断し、投手専念を進言した。
「ふざけんじゃねぇよ。一刀流だけでも大変なのにプロ野球を舐めるな」
一方、落合博満氏(59)は、NHKの番組で大谷を擁護。
「私、大賛成です。周りはみんな否定的なこと言いますよね。やる前から結果ありきで、やめたほうがいいんじゃないかとか、ピッチャーならピッチャー、野手なら野手になったほうがいいんじゃないか、プロはそんなに甘くないって言いますよね。(規定打席と規定イニングに達することができれば)今年のプロ野球最大の出来事と言ってもいい」
まさに“名将”と言われる専門家でも意見が分かれているのだ。
現在大谷は、打者としては1年目にしてレギュラーとして活躍。5番打者として、中田翔(24)とともにクリーンナップの一角を担うこともある。打率もここにきて右肩上がりで、18試合で3割4分8厘(5月30日現在)という驚異的な数字を残している。
かつて、ヤクルト─巨人─阪神と、在籍した全ての球団で4番を経験している広澤克実氏もこう絶賛する。
「とにかくバッティングフォームが柔らかくてシンプルですね。大谷君の場合はフォームが柔らかいので、スイングの際に、先に腰が回転し、それに伴って肩が回転するまでのギャップ、いわゆる『捻ねん転てん差』が大きいんです。このギャップが大きければ大きいほどスイングにパワーが生まれますが、大谷君はこの捻転差がとても大きい。現役選手で例えるならば、巨人の阿部慎之助(34)と同じ柔らかさがある。これが18歳の高卒ルーキーですから、心底驚かされます」
打者としての資質としては申し分ないと太鼓判を押すのだ。巨人のV9メンバーで、数々のチームでコーチを歴任してきた黒江透修氏も、長距離打者としての将来性に期待する。
「大谷君のバッティングフォームは、どっしりしていて、アウトコースにもインコースにも柔軟に対応できる隙のない構えがいいですね。しかも、現役時代の僕のようなコンパクトに当てるバッターではなく、ミスターのような大きなスイングというところも、スター性があって魅力的じゃないですか」
その非凡なバッティングセンスは、07~10年に巨人のヘッドコーチを務めた伊原春樹氏の目にも新鮮に映った。
「大谷は、開幕からこの2カ月は、対戦相手が全て初対決。それだけに、あまり考えず打席に立っていると思います。しかし、それでも自然に適応能力が出ている。対西武の開幕戦での先発・岸孝之との対戦がいい例ですが、第1打席は、捕手の炭谷(銀仁朗)が岸にインコースの直球で攻めさせ、見逃し三振でしとめている。しかし、第2打席になると、初球はチェンジアップに空振りをしたものの、2球目で大谷は、内角にしぼったバッティングで高めの直球を、腕を畳んで強振。一塁線を破る二塁打を記録した。そして、第3打席でも、その前の打席で空振りしたチェンジアップの初球を右前適時打にしています。まさに、大谷が炭谷の配球を読みきった結果と言えます」
さらには、「甲子園の再現」と言われた5月26日の阪神戦。先発・藤浪晋太郎(19)とのプロ初対決でも、打撃センスが遺憾なく発揮された。
前出・広澤氏が語る。
「藤浪との対決では、その対応力、応用力にあらためて驚かされました。結果的にも3打数2安打(2本の二塁打)を放ちますが、藤浪のタイミングに合わせて、そのつど微妙にバットコントロールさせながら打っていました。大谷の完勝でしたね」
まだまだ、打者としての伸びしろがある、と専門家も口をそろえるのである。