おたふく風邪は後遺症の残る怖い病気だ。流行性耳下腺炎と言われ、ムンプスウイルスの感染によって発症する。感染力が非常に強く、ウイルスの入った咳やくしゃみを吸い込む飛沫感染や、接触感染によって広がる。
ウイルスそのものに対する治療法がまだ確立されていないため、解熱剤や鎮痛薬などによって対症療法を行う以外に方法はない。
先進国で唯一、日本は定期接種を行っていないために、4~5年ごとに流行を繰り返しているのが特徴だ。
主な症状として、発熱、片側あるいは両側の頬や顎の下付近の腫れがある。ただし、感染してからすぐには目立った症状が出ず、平均で18日前後の潜伏期間を経て発症する。また、大人の場合、あまり症状が出ない人もいるため、本人が感染に気づかないうちに、周りの人にうつしてしまうケースが多い。
大人がかかると怖いのは合併症だ。精子を作る睾丸に炎症が生じる「精巣炎」は、尿道から細菌が侵入して起こる場合もマレにあるが、大半はおたふく風邪によるもの。高熱とともに痛みを伴って睾丸が腫れてくる。治療が遅れると、1割程度は受精能力が低くなってしまい、不妊の原因になることもある。
他に怖いのが、「ムンプス難聴(感音性難聴)」。ムンプスウイルスの内耳感染によって生じる難聴で、内耳にある蝸牛という、音を感じる器官や聴神経などの異常によって起こる。発症すると聴力は改善しにくい。
おたふく風邪は基本的に一度かかるともうかからないと思われているが、免疫が不十分な場合には再発する場合もある。特に家族に妊婦がいる場合は、必ず抗体検査を受け、抗体がない場合にはワクチン接種をしておくことが必要だ。
田幸和歌子(たこう・わかこ):医療ライター、1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経てフリーに。夕刊フジなどで健康・医療関係の取材・執筆を行うほか、エンタメ系記事の執筆も多数。主な著書に「大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた」(太田出版)など。