それにしても異様な会社と言わざるをえない。社員数はもちろんのこと、平均年齢、給与など会社の基本的なデータは一切公開していないのだ。
井川和弘氏(45)=仮名=は96年、日本IBMの子会社にITエンジニアとして入社した。
「最初に入社した会社はタイムレコーダー会社のアマノと共同開発したIDカードを使っており、出社と退社の時刻は自動的に記録される、当時としては最先端の仕組みでした。ところが、IBMに転籍になったとたんタイムカードは廃止され、コンピューターに自己申告で入力して提出する仕組みになった。おかしな会社だなと思いました。でも、これはサービス残業をさせるための仕組みだったのです」(井川氏)
ひどい実態にアキれ果てた井川氏は労働基準監督署に申告した。労基署はIBMに「指導票」を出したが、一向に事態は改善されなかった。そのため、井川氏はIBM労組に入り、労組として残業代を要望するようにしたため、それ以降の残業代は支払われるようになったという。
「私の仕事はIBMが納品したシステムを使っている会社からの問い合わせに対応する仕事でした。IBMの社員と請負会社の社員を併せて数十人のチームを組んで対応した。ところが、昼間はもっぱら電話を受け、夜、処理していると、毎日積み残しが出るんですよ。人員を増やしてくれるよう上司に言いましたが、ダメでした」(井川氏)
IBMの本社ビルは深夜でも煌々と明かりがついており、社員の間では「不夜城」とも言われる。
「社員の多くは50歳までもたずに退社してしまう。それだけ激務なんですよ。同僚にはうつ病から自殺した人もいます。その後、突然上司に呼ばれ、会議室に入りました。そこで『改善目標管理フォーム』と書かれた紙をもらいました。そこには『改善を要する点』という欄があり、『業務の時間管理ができておらず、非常に多くの残業を行っているにもかかわらず、仕事を処理できていない』と書かれていた。言いがかりだと思いましたね」(井川氏)
IBMには5段階の評価がある。井川氏は「改善目標」というノルマを5年間で6回課せられ、技術系社員としては存在しないはずの新入社員以下の職位4に降格された。