テリー 前座の頃って、収入はどのぐらいなんですか。
鯉斗 前座は寄席に行くと1日1000円いただけるので、30日で3万円です。で、師匠の鞄持ちに行くと、お小遣いをいただけて。だから、当時は風呂なしアパートに住んでましたね。
テリー そうするとね、僕が師匠みたいな男前だったら、女の子の世話になって、もっといい部屋に住もうと思うんですけど。
鯉斗 あぁ、それもちょっと考えたんですけど、なんか不器用なのか、できなかったですね。その時は落語を吸収したい気持ちのほうが強くて、そっちを一生懸命やってました。彼女はいたんですけどね。
テリー やっぱり、今日話してても根っこのところが真面目ですよね。今、師匠のお客さんは女性が多いんですか。
鯉斗 そうですね。二つ目の半ばぐらいから、ちょいちょい、あんまり寄席に来ないような若い子がいるなぁと思ってたんです。それで独演会をやり始めたら若い女性がいっぱいで、驚きましたね。
テリー そういうお客さんだと演目は変えるんですか。
鯉斗 いえ、古典落語をそのまま伝えます。日本人なんでだいたいわかるかなと。
テリー でもね、素人考えですけど、落語って八っつぁん、熊さんの世界ですよね。客に「男前が与太郎噺をやってる」って思われると、やりづらい面もあると思うんですよ。自分で男前とは、言いにくいでしょうけど。
鯉斗 そうですねぇ‥‥。なので、今は与太郎噺はしないようにしてます。今、主に高座にかけているのは、「紙入れ」「紺屋(こうや)高尾」「明烏(あけがらす)」あたりの艶噺や人情噺で。もちろん、うちの師匠や小遊三師匠は滑稽噺を得意とする師匠ですから、そういう噺もやりたいんですけど、なにしろ人相とキャラクターが違うので(苦笑)。僕は自分のフィルターを通して、今の古典落語をお客さんたちに伝えていきたいです。
テリー 例えば「枕」はどうしてるんですか。
鯉斗 メインは日常のことを話してまして。申し訳ないですけど、たぶん、今日テリーさんと対談させていただいたことも、使わせていただくと思います。
テリー アハハ。いやいや、ぜひ使ってくださいよ。でもね、師匠はこれから落語界でも特別な存在になっていくと思うんです。そうすると担う役目も大きいですよね。
鯉斗 いやぁ、ありがとうございます。なので、あまり落語を知らない方に落語を広めていきたいというのがひとつと、あとは小遊三師匠たちに教わった落語界のルールを、プレーヤーとして入ってくる10代、20代に教えたいですね。長屋があった時代の、日本人の粋みたいなものを伝えていきたいっていうのが、すごくあるんですよ。
テリー 今はどういうところに住んでるんですか。
鯉斗 今は普通のマンションです。頑張って働いて、稽古部屋のある、和風の一軒家を作りたいですね。
テリー もうお弟子さんも来てるんですか。
鯉斗 いやいや、まだまだ。
テリー あ、そう。でも、そろそろですよ。きっと地方の族の兄ちゃんが「俺も鯉斗師匠みたいになりたい」って特攻服を捨てて来ますよ。どうします?
鯉斗 アハハハ。いや、その時は引き取りますよ。それは僕がうちの師匠や小遊三師匠たちにしていただいたことですからね。
◆テリーからひと言
見た目はもちろんだけど、中身も男前だったね。さすが元総長! この号が出たら、ほんとに暴走族の兄ちゃんたちが大挙して押し寄せるかもよ。気をつけてね。
(アサヒ芸能8月6日号「天才テリー伊藤対談」=4=)