ドラマで話題になったシーンといえば、やはり人事部次長の小木曽(緋田康人)の“机叩き”だ。テレビ誌編集者が話す。
「銀行本部のヒアリングの席で、机をバンバンと叩きながら半沢を追い込み謝罪させますが、原作では半沢も椅子に座って対峙し、反論をぶちかますばかりか、テーブルをバン! と叩きつける。もちろん、謝罪の言葉はありません」
怒りだすと、タレ目がちの優しいまなざしを一変させて、鋭い眼光でにらみつける半沢。ドラマでは、同期で出向させられた近藤(滝藤賢一)と、剣道で汗を流したり、傘などで相手の反撃に身構えることもあるが、これは原作にはない。
ただ、暴れる元社長の腕をひねり上げ、突進してくれば足をかけて転がす。腕には自信があるようだ。
悪党に向かい、「本当のことを言うなら今のうちだぞ」の殺し文句は、勧善懲悪ドラマにピッタリのセリフだ。芸能ジャーナリストの佐々木博之氏が話す。
「久しぶりに『ドラマのTBS』と誇れる作品でした。長寿ドラマの『水戸黄門』や『必殺シリーズ』といった日本人の大好きな要素が織り込まれている。そこに演技派をそろえたキャスティングが、またみごとでした。原作をあとから読んでもしっくりとくる。そして『ダマしたほうが悪い』『最後には正義は勝つ』というわかりやすさが痛快でした」
視聴者の基本的ターゲットは、最近の風潮を無視し、男性という点も奏功。身近でいながら意外にも内実を知らない銀行という舞台設定も、ドラマが“大化け”した理由のようだ。佐々木氏が続ける。
「難しい金融界用語は解説されているし、男社会に上手に女性を配置。大阪篇では壇蜜をセクシーな愛人役だけでなく女性起業家として設定。また、原作では男性だった、したたかな羽根専務役を、東京篇では倍賞美津子が演じるなど、スパイスも効いていた。もちろん、銀行マンを支える夫人たちの演出も巧みでした」
その象徴が大阪篇のラストだろう。原作では半沢の家庭の夫婦愛は描き込まれていないが、ドラマでは上戸彩演じる半沢花が、夜景を前にして義父(笑福亭鶴瓶)が自殺していたことを打ち明けられる。
「ドラマ版の半沢の行動原理には、大和田常務(香川照之)に融資を引き上げられて父が自殺に追い込まれたという恨みがあり、この強烈な復讐心がドラマを貫く最大のテーマとなっています。ところが、原作ではそもそも父親は自殺していません。つまり、大和田常務への恨みがない。あくまで貧乏くじを引かされ続けた、半沢をはじめとする『バブル入行組』の悲哀を前面に押し出しています」(前出・テレビ誌編集者)
今後は年内に総集編SPドラマが放送され、そして来年夏にはシリーズ3作目のドラマ化や映画化も検討されているという。
ちなみに、現在、原作者の池井戸氏はビジネス誌でシリーズ4作目を連載中だ。