振り返れば、シーズン当初は、決して好調の時ばかりではなかった。それを救ったのは、嶋の攻守にわたるサポートがあったからに他ならない。
開幕初戦となった4月2日の対オリックス戦、7回を投げ2失点で勝利した。
「カーブを覚えてきたと相手(打者)に意識させれば十分」
と言った田中。直前の第3回WBCの時に、「メジャーでは縦に落ちるカーブが効果がある」と言われて身につけたカーブを多投したものだった。これは以前から佐藤義則投手コーチに「カーブが投げられないと勝てない」とアドバイスされていたことを確実に体現できた瞬間でもあった。一方、嶋もまたこの試合で田中を後方支援している。リード面では、カーブを多めに要求。打撃でも3安打4打点の活躍で内助の功を見せた。続く9日の対日本ハム戦の登板でも、田中は7回を1失点に抑える力投。嶋も先制のスリーランホームランを放ち、大きく勝利に貢献したのだった。交流戦が始まる5月14日までに田中は5勝をあげ、嶋はそのうち4試合で打点をあげて田中をバックアップしている。
シーズン序盤、不安定な投球が続く田中を救う打撃を見せ、信頼を得た嶋は、田中の“オン”と“オフ”の違いに最初から気づいていた。
「アイツは走者を得点圏に置くとスイッチが入る。そうなると内角を積極的にいっても大丈夫。危険を感じた時は、わざとボールにしてくれる」
と、田中の投球技術を評価した。“走者を置いた時の豹変ぶり”こそが、開幕25連勝につながる大きな要因となったことは間違いない。
実は、田中はWBC期間中に、何気なくヤンキースの黒田博樹が著した「クオリティピッチング」(KKベストセラーズ)を手に取った。そこに書かれていたのは、メジャー選手の心構えだった。「メジャーで必要なことは勝ち星ではなく、負けないこと」「先発投手は1年間ローテーションを守り、6回までキチンとゲームを作り、200イニング以上投げること」とつづられていた。「メンタルはマウンド上でコントロールできる」という点についても共感し、それを実践しようと心がけるようになっていったのだ。
◆スポーツライター 永谷 脩