さて80年代前半は、日本中で「荒れる学園」が社会問題化していた。そんな世相をいち早く取り入れ、流行語にもなったのが「積木くずし」(83年、TBS系)だ。
「俳優・穂積隆信の自伝をもとにしただけに、家庭内暴力はかなりのインパクトがありました。娘役の高部知子がもじゃもじゃパーマでタバコをふかすし、シンナー浸り。真っ黒な口紅や青白く塗った顔色など、どれもこれもが一級品。そして高部自身の『ベッドの上で恋人とタバコ写真』が決定打となりました」(芸能評論家・織田祐二氏)
ドラマの高視聴率を受け、同じ年に映画化された。本来、高部が主演を務めるはずが、諸般の事情により降板。代役を務めたのは角川三人娘の渡辺典子だった。映画評論家の秋本鉄次氏が語る。
「ポスターでわかるように、かなりケバい化粧ですが、それに見劣りしないだけの美人顔。これはヤンキー女優の重要な要素ですね」
母親を「クソババア」呼ばわりする過激な演技も、難なく渡辺はこなした。その〈美人=ヤンキー演技〉の法則でいけば、ヒットシリーズとなった「ビー・バップ・ハイスクール」(85年、東映)の三原山順子を演じた宮崎ますみこそ、適役だろう。前出・秋本氏が歴史的に解説する。
「東映という会社は、70年代から暴力・酒タバコ・男女の性をテーマにしたスケバン映画をいくつも放ってきた。その流れを受け継いだのが、本作における宮崎ますみ。本来、ヤンキー度が高いはずの中山美穂が優等生役に回ったぶん、宮崎の濃いめの顔を生かした鬼姫役が際立ちましたね」
そして80年代のドラマ史を、いや、テレビ史を語る上で欠かせないのが「大映ドラマ」の強烈なエネルギーだ。傑作・怪作は数多いが、ヤンキー度に関しては「不良少女とよばれて」(84年、TBS系)が群を抜く。
〈恋はいつも壊れやすいのよ。ビタミンCみたいにね〉
タイマンの場で、何とも乙女チックなセリフを吐く伊藤かずえの威圧感も捨てがたいが、ここはやはり、主演に敬意を表していとうまい子を論じてみたい。
「あどけない顔ですが、その肩書きは『相模悪竜会』の会長。総勢300人の不良グループを率いています。木刀、鉄パイプ、チェーンが乱れ打ちとなって、まるで女子プロレスの試合を見ているようでした」(前出・織田氏)
テレビでギリギリ表現できる「女子刑務所ドラマ」の一面もあったようだ。同じ大映ドラマで最大のカルト作に位置するのが、杉浦幸の初ドラマ「ヤヌスの鏡」(85年、フジテレビ系)だ。
「この時代は、悪い女を強めのパーマであるカーリーヘアで表現していましたね。三原じゅん子や高部知子の系譜に杉浦幸もいます」(お笑い芸人・ユリオカ超特Q氏)
杉浦扮するヒロインは、日頃、祖母からせっかんを受けており、ピークに達すると別人格が浮上。
「本来はヤンキーと距離のあるタヌキ顔ですが、一転して目の周りを黒く塗った姿はインパクト大。人格が変わる前はボソボソしたしゃべりなのに、別人格になったとたん、ハキハキしたヤンキー口調になるのもギャップ萌えでしたね」(前出・織田氏)