コロナ禍の何波目かは知らぬが、ワクチン接種が遅々として進まず、この事態に右往左往している間に、夏競馬は終章を迎えるに至った。多くのことが逼塞して出口が見えない中、競馬だけは途切れることなく、粛々と行われてきた。競馬を楽しみ、また生業としてきた者としては、ありがたいことこのうえない。
1日でも早い終息を願うだけだが、秋以降のGIシリーズはぜひ、スタンドの声援を得て堪能したいものである。
8月最後の重賞は新潟2歳Sと、札幌でのキーンランドCがメインとして行われる。
新潟2歳Sはマイル戦となって今年で20回目。距離が延びてからクラシック候補が(実際、クラシックの勝ち馬も)出てきており、ファン必見の注目すべき一戦といっていい。
まずはデータから見ていこう。
マイル戦に変更されたのと同時に馬単が導入され、過去19年間で馬単万馬券が7回(馬連は5回)。この間、1番人気馬が9勝(2着3回)、2番人気馬は2勝(2着3回)をあげており、1、2番人気馬によるワンツー決着は4回。
こうしてみると堅い時は堅いが、海のものとも山のものとも判別ができない若駒同士の一戦だけに、下馬評どおりにいかないことも多々あるようだ。
あとは同じ斤量を背負っての競馬ながら、牝馬が牡馬と互角に渡り合っていることは見逃せない。
過去19年間で牡馬の12勝(2着12回)に対して牝馬が7勝(2着7回)。出走頭数が牡馬よりもやや少ないことを思えば「暑さに強い牝馬」ということは、デビュー間もない若駒同士の競馬にも当てはまるだろう。
それにしても今年は素質馬ぞろいである。
俗に言う“持ったまま”の好タイムで完勝劇を演じたオタルエバー、ルメール騎手が手綱を取るアライバル、今春のクラシックで活躍したステラヴェローチェ(皐月賞、ダービーともに3着)の妹・クレイドル、そして評価の高いセリフォスといった面々だ。
いずれの馬が勝っても納得で、まさに今後を見据えて目の離せない一番だ。
とはいえ、穴党として期待を寄せているのは、前記した有力勢ではない。素質では断じてヒケを取らないとみて、グランドラインを狙う。
デビュー戦は多頭数(16頭)の中、スムーズさを欠いてまともな競馬ができなかったが、それでも最後は見せ場を作り、勝ったアライバルにコンマ7秒差の5着。これは、と思っていたとおり、続く前走の未勝利戦では、ハナを切って楽々と逃げ切ってみせた。
走破タイムは平凡だったが、道中、遊び遊びで集中さを欠きながらのパフォーマンスは、素質が高ければこその芸当。かなりのポテンシャルを秘めた馬だとにらんだ。
高木調教師が、
「まだひ弱さが残っているし、気性も子供。これからの馬だと思うが力は確か。今後が楽しみな1頭」
と、目を細めて話していたように、アカ抜けた好馬体から好素材の持ち主であることは間違いなさそう。近親に活躍馬が少なくなく、北米屈指の名牝系という血筋のよさも魅力だ。
前走後は短期放牧でリフレッシュ。ここを目標にしっかりと調整されてきており、1週間前の追い切りもリズミカルで実によかった。どんな競馬でもできそうなタイプで、大きく狙ってみたい。