佐藤氏が続ける。
「入団した時に比べて、体全体が分厚くなったのは明らか。ボディバランスがいいだけに、抜け球以外のコントロールミスもみるみる減りました」
中でも体の変化で特筆すべきは下半身の強化だろう。
「高校時代から佐々木の体をチェックしている、筑波大学の川村卓准教授の課す体作りのメニューをこなしてきました。同大学院でその教え子だった吉井理人ピッチングコーディネーター(56)をお目付け役に置いて、1年目からトコトン走り込みをやらせてきたのです。トレーナーをつけて走り方のフォームから指導する徹底ぶりでした。最近では腰に巻いたゴムチューブをトレーナーに引っ張ってもらいながら走る、タイヤ引きのようなトレーニングをするなどして下半身をイジメ抜いていますよ」(球界関係者)
パワーアップの行く手には、プロ入り前から目指してきた、日本人前人未到の限界突破に期待が高まるが──。
「もしかしたら、すでにブルペンで170キロをクリアしているかもしれません。しかしながら、その巨大出力に日本人の体が耐えられるかどうか疑問符がつく。さすがに、10球も投げたら腕がちぎれちゃいますよ」(佐藤氏)
そもそも、MAX164キロで奪三振率16.43(4月16日現在)を誇る剛腕に、さらなるスピードアップはもはや不要。むしろ、課題はランナーを出した後のクイックの上達だろう。佐藤氏がその弱点を指摘する。
「上背があるだけにモーションが大きくなって二盗を許してしまう。投球モーションに入ってから、キャッチャーミットに球が到達するまでのタイム1.2秒のクリアはマストでしょう。そうでないと、どんなに強肩のキャッチャーと組んでも走られ放題になります。今後、フリーパスになるような展開が続くようなら、すぐにでもメスを入れる必要がある」
完全試合を成し遂げたのだから当然だが、ランナーを出さなかったからこそ完璧に抑えることができたのか。技術的なことはもとより、まずはケガなくシーズンを完走することが第一である。
「今の佐々木があるのは、高校時代の甲子園を決める県大会決勝の登板回避、プロ2年目の中10日起用のおかげと言っても過言ではない。特に昨季は、佐々木の起用法を巡って、当時の吉井投手コーチと井口監督の間で評価が分かれた。シーズンの最後まで、吉井コーチは中10日を譲らなかったんです。今季から1軍投手コーチの役職を外れたのはこの件が大きく絡んでいると言われます」(スポーツ紙デスク)
一方で体作りを軽視した結果なのか、同じ世代の双璧をなすライバルのヤクルト・奥川恭伸(21)に不穏な話が急浮上している。
「1年目の後半に、2軍コーチに隠れて投げ込みをして痛めたヒジが悲鳴を上げているようです。球団の発表では『上半身のコンディション不良』とボカしていますが、即手術が必要なレベルの重症だとも。もともと、星稜高校時代から走り込みや準備運動を軽んじるきらいがあったが、プロ入り後も体作りを敬遠する姿勢に変化はなかったそうです。甲子園や神宮大会に出場するなど、佐々木と違ってアマチュア時代の勤続疲労があるだけに、患部の状態が心配です」(スポーツ紙デスク)
まさにスパンの短いウサギとカメ。入団以来、「いつ本気で投げるのか」とファン、関係者をやきもきさせた佐々木の育成法が正しかったと言わんばかりだが、ライバルのアクシデントをよそに若き大投手は己の道をひた走る。