カウント「2ボール2ストライク」の場面。キャッチャーのサインに首を振りたいのをグッとこらえ、ピッチャーが投げた。その1球を「ボクがバッターとして打ったら、悔いが残らないんですか」と尋ねたのはミスタータイガース。それに対して「なんでお前に打たれるんだ」と問い返したのは、伝説の豪腕である。
「江夏(豊)さんから教わったことで、いちばんボクが打席の中で大切にしていたことは…」
掛布雅之氏がそう回想したのは、YouTubeチャンネル〈掛布雅之の憧球【公式】〉でのことである(6月1日)。冒頭の会話は、阪神での若き日の2人が交わしたものだったのだ。
江夏氏の返答は、なにも掛布氏の技術を云々したからではなく、
「ボールは3つ投げていい。3つボールを投げるのはピッチャーの権利なんだ。だから、なんでお前が2ボール2ストライクで勝負にいくのか分からない」
江夏氏はそう言って「もう1球ボールを投げる」とし、
「いいピッチャーになればなるほど『2ボール2ストライク』からストライクに投げない。そんなピッチャーがいることを覚えなければダメだよ」
掛布氏をミスタータイガースに導く礎を残して75年シーズンオフに、豪腕は南海ホークスへと移籍した。
(所ひで/ユーチューブライター)