連載企画「映画一直線」を始める。
ちょうどいいタイミングなので、今年上半期の映画界のトピックについて、何回かに分けてお伝えしよう。
第1回目は今年上半期の映画興行で、興行収入トップに踊り出そうな「トップガン マーヴェリック」に触れる。
7月10日時点で、興収84億円を記録。前作「トップガン」(推定約78億円、1986年)をすでに上回った。最終興収ではなんと、100億円超えが射程に入った。全く、驚きの数字だ。主演は言うまでもなく、トム・クルーズである。
彼の凄さ、偉業は、これまでの数字に表れている。主要なシリーズである「ミッション:インポッシブル」全6本と「トップガン」2本だけで、累計の推定興収約530億円が見込まれる。これに「ラスト サムライ」(137億円)、「宇宙戦争」(60億円)、「マイノリティ・リポート」(52億4000万円)などを加えれば、さらに数字は伸びる。
今挙げた作品以外でも「カクテル」「レインマン」「デイズ・オブ・サンダー」など、大ヒット作品はもっともっとある。これだけ広範囲のジャンルにわたる米映画に主演した俳優で、ここまでの大ヒット作を日本で連発しえたのは、彼ただひとりである。
1980年以降の米映画の興行史は、少なくとも日本においては、トム・クルーズとともにあると言って差し支えない。
その理由をひとつだけ挙げれば、米映画のヒーロー像を、30年以上にわたって演じ続けることができたことだろう。俳優は歳をとる。当たり前のことだが、俳優は歳のとり方によって、演じる役柄は変わる。一時期、ヒーローを演じられても、時が過ぎれば、その役は難しくなる。別の役柄に挑戦するようになる。
それが、トム・クルーズは全く別格であった。歳は重ねてきたが、風貌、体躯の維持、持続はもとより、ヒーローにとって最も重要な、観客側の共感の熱量が落ちなかった。
もちろん、俳優としての紆余曲折はあったが、それをバネにするだけのとてつもない肉体力と精神力があったのだと思う。ありきたりな言葉だが、そうとしか言いようがない。
映画館を意識した映画作りのこだわりも、並み外れている。配信隆盛の昨今、大画面の映画館を主体にした映画製作の王道を突き進む。映画人として、とても大切なことだ。
ひょっとして、実年齢60歳を迎えたトム・クルーズは、全盛期に向かって驀進しているのではないか。「マーヴェリック」のスーパーヒットは、そのようなことさえ想起させるのである。
(大高宏雄)
映画ジャーナリスト。キネマ旬報「大高宏雄のファイト・シネクラブ」、毎日新聞「チャートの裏側」などを連載。「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など著書多数。1992年から毎年、独立系作品を中心とした映画賞「日本映画プロフェッショナル大賞(略称=日プロ大賞)」を主宰。2022年で31回目を迎えた。