国際情勢ではえてして「ありえない事態が起こる」もの。世界を愕然とさせたロシアによる電撃的なウクライナ侵攻もまた然りだ。翻って、我が国を取り巻く状況も危機と隣り合わせ。日本弱体化を虎視眈々と狙う国々と渡り合うにはどうすればいいのか。元航空幕僚長の田母神俊雄氏が緊張高まる現状に警鐘を鳴らす。
ロシアがウクライナを侵攻して5カ月が経った。両国は30年前、ともにソビエトを構成する共和国であり、ウクライナ国民の3分の1はロシア語を使用するなどウクライナ語とロシア語はともにウクライナの公用語であった。14年に親露派のヤヌコビッチ政権が崩壊して以降、ウクライナではロシア語が公用語から廃止されるなど親露派国民との軋轢が生じていた。プーチン大統領にとって、ウクライナはあくまで自国の一部。そのため強硬手段に出たとされるが、戦争の背景に「武器商人=軍需産業の存在がある」と指摘するのは元航空幕僚長の田母神俊雄氏(73)だ。プーチンに侵略を意図させた勢力とは何か。田母神氏が語る。
「アメリカのバイデン大統領の『戦争はしない』との宣言がプーチン大統領の侵略を誘発した可能性が大です。アメリカがウクライナの戦争に参加しないのなら簡単に片が付くとプーチンは考えたのでしょう」
しかしロシアの侵攻開始後、米国は強硬にロシアを批判し大規模な武器支援を開始した。ウクライナへの武器支援は米国の軍需産業を潤わせる一面を持つ。
「周知のとおり、ウクライナはNATOに加盟しようとしていました。NATOは30カ国の軍事同盟であり、加盟国が軍事侵攻された場合、他の加盟国は即時に戦争に参加することを義務付けられています。ウクライナがNATOに加わるとロシアはNATO全体と戦わねばならず、結果ウクライナを攻められなくなり、ウクライナで弾圧を受けているロシア系の人たちを救うこともできなくなります。そこで侵攻に踏み切ったと考えられます」
では、日本の場合はどうか。田母神氏は、「NATOと日米安全保障条約には決定的な違いがある」とこう主張する。
「NATOの即時参戦同盟に対し、日米安全保障条約に即時参戦の規定はありません。日本が中国などの侵略を受けた場合、米国大統領が米軍に戦闘参加命令を与えない限り、米軍は自衛隊を助けることはできません。米国大統領が日本の戦争への参加を命じてくれる可能性は低いと思われますが、万が一、大統領が決心してくれても、その有効期間は2カ月しかありません。2カ月以内に米国議会の承認が必要です。“反日法案”が頻繁に可決される米国議会に『日本を守ることを議決してくれ』というのは無理な話です」
米国がロシアによるウクライナ侵攻に直接参戦しないのはロシアとの直接衝突を避けるためであり、ここに日米安保の限界も垣間見える。核武装国同士は核戦争になれば自国も甚大な被害に遭うことを熟知しており、ゆえに小さな戦争もできないのが現状なのだ。今後、中国が日本侵略を企てても、核戦争を避けるため米国が戦争に参加する可能性は限りなく低い。