だが、中国の野心は尖閣諸島だけにとどまらない。中国は南シナ海の西沙諸島で石油発掘作業を開始し、領有権を争っているベトナムとも小競り合いを続けているが、ベトナムは強硬な姿勢で“大国”中国に対し、果敢に対抗し毅然とした態度で臨んでいる。
5月に入り、中国船によるベトナム船への意図的な衝突が幾度となく行われているばかりか、高圧放水による嫌がらせや漁民の頭を電気棒で殴打するなど、暴挙が頻発し、エスカレートする一方だ。
しかし、日本とベトナムの中国への対応は実に対照的と言える。
「ベトナムやフィリピンは、軍事力が日本の100分の1ほどしかありませんので、中国とまともにぶつかっては勝ち目がありません。特に、陸地戦ならまだしも、海や空の戦いでは100%負けるでしょう。それでもベトナムは中国に体を張って抵抗しています。対して軍事大国の日本ですが、自国を守ろうという意思がありません。そのため尖閣諸島で中国の狼藉を許しているわけです」
今回の一件で「すわ戦争か」とおびえる日本人も少なくないが、田母神氏は「こんなことで戦争になどならない」と断言する。
「戦争はリスクが大きく、ましてや現段階の中国が戦争をできる体制にはありません。また、本気で戦争を考える場合、少なくとも3カ月から半年ぐらいの準備が必要で、有事が近い場合、国内の動きは間違いなく通常と変わります。例えば戦闘機の配置を変えたり、戦艦を集結させたり、あるいは後方支援の機材を集めたりと緊張感に包まれます。戦争準備をしているのであれば、電波の通信量も平時と比較にならないほど増えます。今のところ、中国が戦争の準備をしている兆候はありません。自衛隊はそれを毎日監視しているのです。繰り返しますが、中国の狙いは戦わずして尖閣諸島をかすめ取ること。そのためにハイリスクの戦争を選択するはずがないのです。ましてや、軍事力的にも中国軍は現段階で自衛隊との戦いに勝てません」
中国にしてみれば、攻撃できない日本は少しも怖くはない。領海も領空も侵犯し放題だ。今回のようなニアミスは今後も続くに違いない。
5月29日、日本維新の会の石原慎太郎共同代表が分党し、新党を結成することを発表。田母神氏は憲法改正を目指す「石原新党」に参加することを表明した。
「集団的自衛権の行使における議論で、反対派は『戦争のできる国にするのか』と言いますが、戦争をできる国のほうが戦争を仕掛けられにくいのです。国際社会は子供の世界と同じで、腕力が弱いとナメられます。また、戦う意思がないとナメられます。尖閣諸島で好き放題されるのも、我が国に戦う意思がないから。戦争のできる強靭な国になることが、戦争を起こりにくくさせるのです」
アサヒ芸能の連載でもベトナムとの衝突直後、「対岸の火事ではない」と指摘した田母神氏の言葉どおり、中国は日本にも脅しをかけてきた。
「中国がいよいよ本性を現した」と田母神氏は指摘する。
「第二次世界大戦以前の世界は、軍事力の強い国が弱い国に戦争を仕掛け、武力により相手の富と資源をぶんどりにいっていました。戦後、そうした軍事力による支配は陰を潜めていましたが、日本やベトナムに対する行為は、第二次世界大戦以前の帝国主義時代の考え方で、時代に逆行しています。我が国では、戦争さえなければいいという誤った考えがあり、自衛隊は世界で唯一、国際法で動けない軍隊です。国際法は、軍の指示に従わず領海侵犯した船を銃撃することを認めています。パラオの軍が中国船を銃撃した際も戦争になどなりませんでした。国際法に沿っているため文句を言えなかったのですが、国内法で自衛隊を縛る日本は、自衛隊の武器使用を『正当防衛と緊急避難』にとどめており、銃撃などできない状況にあります。つまり、国際法対応に変えるだけで抑止力となり、中国も強く出られなくなります」
“進撃の中国”を止めるためには、一刻も早く日本が世界の常識に近づくしかない。