1984年6月に全国で公開され、大きな話題を呼んだ映画「天国の駅」。その制作発表会見がその年の1月23日に東映本社で行われ、主演の吉永小百合と、百恵夫人が妊娠中という三浦友和が出席した。
この映画は、その美しさゆえに運命の歯車が狂い、2人の男を殺害するという女死刑囚の実話をもとに、「夢千代日記」で吉永とタッグを組んだ早坂暁がシナリオを担当した作品。
戦争で下半身不随になり異様な嫉妬心を燃やす、中村嘉葎雄演じる夫を抱えて悩む妻を、吉永が演じた。
それまで二枚目専門だった三浦が、吉永をなぶりものにして金までゆすり取る年下の悪徳警官を演じることで、クランクイン前から大きな話題になっていたこともあり、会見場には200人を超える報道陣が詰めかけた。そんな中、会見に臨んだ三浦は、この作品にかける意気込みを、次のように語った。
「僕の役はダニみたいな警官なんですが、男はみんなそういう一面を持っているんじゃないですか。(吉永との)ベッドシーンもかなり激しいものになりそうだけど、妻にはまだ話していません。妊娠しているから? そうかもしれませんね。プロデューサーは僕に意外性を期待しているんでしょう」
一方の吉永は「初の汚れ役」を演じることになったわけだが、「みなさんにお見せするような体じゃなくて」と照れ笑い。
とはいえ、この映画には「俺の留守に若い男がいただろ。検査してやる」と、わめきながら吉永の足にむしゃぶりつき、着物の裾をめくり上げて白い太腿が露わになるシーンのほか、三浦扮する警官が吉永の胸元から手を差し入れ乳房を揉むシーン、さらには吉永がひとり自らを慰めるなど、ドギつい展開が満載。
当初、吉永サイドも事件の資料を読み「とてもじゃない、できません」と断ったそうだが、その「醜い女」を「美しく悲しい女」に変身させた早坂の手腕には脱帽するしかない。
ところが、である。日本全国のサユリストが不安と期待を寄せた、映画公開初日。観客の声を集めて記事にするため、上映後、映画館前でインタビューした私に寄せられた反応は大半が「期待外れ」というものだった。つまり、全くドギつさがないのだ。
さっそくプロデューサーの岡田裕介氏に話を聞くと、なんとこの作品、映倫によってケチがつけられたというのである。岡田氏が言うには、
「映倫の方が3回検査に来られて、風営法改定後の第一作ということで、妥協してほしいと。そのため、かなりのシーンがカットされてしまったんです」
そこで、映倫関係者を取材すると、実に意味深な答えが返ってきた。
「内容の問題というより、吉永主演映画だということ。映倫にもサユリストは多いからね」
いやはや、吉永小百合恐るべし──。やはり「永遠の処女」なのである。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。