3日目の夜、小動物用捕獲器を仕掛けるために、家の並びの空き家へと向かった。右手に大きな捕獲器と左手にカリカリや缶詰、連れ合いのゆっちゃんは新聞紙やクールボーイが普段使っているバスタオルなどを持っている。
庭への扉を開け、そっと入り、ライトも周囲にも気づかれないように下に向けたまま、慎重に捕獲器を仕掛けて家に戻った。
「クーじゃなく、他の猫がかかっちゃうかもね」
「でも、タオルとかがあるから、クールがいちばん先に近づくんじゃないか」
「以前、同じのに引っ掛かった記憶があるから、近づこうとしないとか」
「お腹がすいて、背に腹は代えられない、腹ペコでご飯を食べたいとか」
あれこれ、思い巡らしたのだった。その夜は変化なし。朝には捕獲器を引き上げた。
翌日、空き家の娘さんに連絡してくれた和菓子屋の女将さんがやってきて、娘さんのMさんが家を片付けるためにやってくるという。直接、お願いできれば、コソコソすることはなく、安心だ。
午後、和菓子屋の女将さんと空き家の様子を、和菓子屋の隣りにある、アパートの2階の廊下に行き、確認してみた。そこから見た空き家の庭は雑草が生え、物置と塀との間の隙間がある。さらにアパートと、空き家の隣りの学習塾の間にはかなり古びた物置もあり、複雑に入り組んでいる。人の目から逃れることができる死角はいっぱいありそうだ。
「猫ちゃんはどこに隠れているのかしらね」
4日間見回って、実は空き家の庭の縁台だけではなく、空き家の2階の屋根、学習塾の裏階段の奥の方でもクールを見かけている。すぐに姿を消してしまうのだが。まさに神出鬼没。クールは一体どこに隠れているのか。
4日目の夜も同じように捕獲器を仕掛けて、待つことに。だが、見回りに行っても物音すらしない。
5日目。朝、捕獲器を引き上げ、お昼頃に空き家に行ってみた。家主のおじいさんはここに戻ることはなく、家は売却してしまうようで、業者が荷物の運び出しをやっていた。娘のYさんもいて事情を説明すると「どうぞどうぞ、誰も住んでいませんから。猫ちゃんを見つけて下さい」と快く受け入れてくれた。これで不法侵入で怪しまれることはない。クールを捕まえることに専念できる。
しかし、その日もクールは捕獲器にはかからなかった。
「もうどこかに移動したということはない?」
「いや、2階の屋根でも見かけているし、楽しい仲間もいるんだから、あそこにいると思うけど」
「もう空き家にいないかもしれない、という前提で考えることも必要じゃないかな。猫の探偵にお願いしたり、動物病院に写真を貼ってもらったりも考えた方がいいんじゃない」
「あと2、3日、お腹をすかしてご飯に飛びつくのを待ってみようよ」
保護猫のクールを紹介してくれたMさんも連絡してみると「とにかく1週間は頑張ってみようよ」と励まされる。
脱走してから6日目。夜回りは続けているし、いつ捕獲器にかかるかと気にしながらの毎日は、意外に疲れるものだ。おちおち仕事も手につかない。
6日目も収穫がなく、7日目の朝を迎えた。世の中のコロナ騒ぎもどこへやらの、晴天の朝だった。
(峯田淳/コラムニスト)