2度目の脱走から2日目の朝。近所を探し回って我が家から4軒目の空き家で立ち止まって、しばらく様子を確認する。庭は草木が生え、奥の壁の手前には物置もある。猫には都合のよさそうな場所はいくつもある。ここは重点観察地区である。
昼、夕方と、同じように見回ったが見つからない。勝負は猫が動き出す夜中である。深夜12時を回って懐中電灯を持って空き家に行ってみる。気配はない。塀の扉を開けず、伸びをして庭に面したあたりを凝視してみたら…。
いた! クールボーイがいるじゃないか。それも茶虎の野良猫、トラちゃんと一緒だった。依然と同じように尻尾を振ってうれしそうにしている。伸びをしたまま「クー」と呼んでみた。一瞬、チラッとこちらを見たような。
前夜と同じように庭の木製の扉を開けてみた。クールもトラちゃんも物音に気がついたようで、ギクリと身構えた。扉が開いた隙間の先の暗闇でクールと目が合った。
「クー」といったら、ソッポを向いた。中に入ろうと動くと、クールもトラちゃんも申し合わせたように奥に逃げてしまった。どこに消えたのかはわからない。そうなったら、庭に侵入して探すしかない。だがけっこう雑草が生えていて、足に何かが引っかかる。暗闇でライトを照らして、誰かに見つかったら泥棒だと通報されるかもしれないので、ドキドキしながら一瞬だけ照らしてみる。周囲を見たが、猫の姿はない。
いずれにせよ、前日見たサバトラの猫、トラちゃんにクール…。ここは猫たちの館なのだろう。その場は扉を音が出ないようにゆっくり閉めて家に戻った。
「クール、いた。やっぱり、あの空き家」
と連れ合いのゆっちゃんに言うと、
「やっぱりね、クーはどうしてた?」
「トラちゃんと一緒。昨日見たサバトラの猫も一緒。楽しく過ごしているかもしれない」
「まあ、クーはそのほうが楽しいのかあ」
問題はそうとわかってどうするか、だ。
「でも、お腹はすかしているんじゃない。他の猫が食べるかもしれないけど、カリカリを少し置いてあげたら?」
「そうだね」
すぐに空き家に戻って入口の扉の先に器に入れたカリカリをおいて、家に戻った。
3日目、再び、保護猫のクールを紹介してくれたMさんに連絡である。
「クール、同じところで見つかった」
「そう。よかったわね。それじゃ、また捕獲器でつかまえるしかないね」
「でも、前と同じように台所に仕掛けて、来てくれるかな?」
「その家の庭に仕掛けることはできないの?」
「さすがに、そこまではできないかな」
「家の人に連絡はつかないの? 頼んで、置いてもらうしかないんじゃない」
それで、思いついたのが我が家の隣の列の2軒目の和菓子屋だ。女将さんは近所のことなら何でも知っているから、聞いてみよう。それが一番だ。
早速、和菓子屋に行って事情を説明する。
「あの家には体が悪いおじいさんが一人で住んでいたの。でも、1人じゃおいておけないので、どこか施設に入れたみたい。Yさんという娘さんがいるけど、連絡先がわかればね。わかったら連絡してみますよ」
「そうしてもらえると助かります」
「ところで、どうやって逃げたんですか」
それが…と詳しく説明したら、「まあ」と女将さんも驚いている。我が家のベランダから和菓子屋の1階の庇にジャンプするなんて…というわけだ。
結局、その日は娘のYさんには連絡がつかなかったが、「説明すればわかってもらえるから」と女将さんが言うので、夜、捕獲器を仕掛けることになった。
(峯田淳/コラムニスト)