日中、ずっとウトウトしている──。もしかしたら「傾眠傾向」かもしれない。
これは意識障害の一種で高齢者によく見られる症状だ。意識障害のレベルは傾眠、昏迷、半昏睡、昏睡の4段階に分類される。「傾眠」は最も軽度の状態だ。声掛けや、肩をポンと叩く、弱い刺激で意識を取り戻す。一見すると、睡眠不足で眠気に襲われているだけに見えるが、ただの居眠りとは訳が違う。「傾眠傾向」を放置すると、外部からの強い刺激に対しても反応を示さなくなる「昏睡」まで進行してしまう危険があるからだ。
「傾眠傾向」を発症すると、眠気以外に、注意散漫で無気力という症状も現れる。進行すると錯覚妄想、せん妄といった症状を発症するケースもある。睡眠中は食事を取らないため、脱水症状や栄養不足、運動不足による筋力低下が生じる恐れがある。
「傾眠傾向」の原因は、「認知症」、「慢性硬膜下血腫」、内科的疾患、脱水、薬の副作用の5つが挙げられる。特に注意が必要なのは「認知症」と「慢性硬膜下血腫」だ。
いわば「傾眠傾向」は認知症で見られる症状のひとつ。初期症状である無気力状態になると、意欲を失って脳が興奮状態になりにくく、傾眠傾向が強くなるのだ。
「慢性硬膜下血腫」は、頭を打った時に、脳と硬膜(脳脊髄を包んでいる硬い膜)の間の血腫が脳を圧迫することで「傾眠傾向」が引き起こされる。高齢者の血管はもろく、軽く頭をぶつけた程度でも「硬膜下血腫」を発症する危険が高い。基本的に外科手術が必要になるため、早期発見がポイントとなる。
ただのうたた寝なのか、傾眠傾向なのかを判断するのは困難だが、昼間によくウトウトする、ある日を境にウトウトすることが増えた、これらの症状が出始めたら、早めに医療機関を受診したい。
田幸和歌子(たこう・わかこ):医療ライター、1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経てフリーに。夕刊フジなどで健康・医療関係の取材・執筆を行うほか、エンタメ系記事の執筆も多数。主な著書に「大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた」(太田出版)など。