「ギャギャギャギャ!」
突然、どこかで暗闇を閃光が引き裂くような、大きな音がした。ビールを飲みながらテレビを見ていたのだが、椅子から飛び上がりそうになった。
「猫!」
「かかった?」
驚いたのは、連れ合いのゆっちゃんも同じだ。声を発した時には、玄関に駆け出していた。素早くサンダルを履き、ドアを開ける。台所の出窓の外。音、声の出どころは間違いなく捕獲器だった。クールボーイが入っているのか。鳥肌が立つ。
バタン、ガタン、「ギャー」「グワン」。阿鼻叫喚である。小動物用捕獲器に近づくと、被せてあったバスタオルを思いっきり引っ張った。
そこには真っ白な猫がいた。顔の三毛の特徴は、紛れもなくクールボーイだ。クールは僕と目が合って恐れるように、また狭い捕獲器の中でバッタンバッタンと暴れ、飛び上がろうとする。
「コラ、バカ!」
身震いしながら叫んでいた。喜ぶとか怒るとかとは異なる、言いようのない感激のようなものも…。ゆっちゃんも玄関から顔を出している。
「クー?」
「そう、クーがやっとかかった」
「よかった~」
捕獲器を持ち上げようとすると、さらにバタバタと動く。
「わかった。いいから大人しくして!」
玄関に入っていくと、さすがにジュテとガトーの兄たちもビックリした様子で、捕獲器に鼻面をくっつけ、クンクンにおいを嗅ぐと、その尻尾が揺れている。そして、玄関の床に捕獲器を置いて、入り口の扉を上に開けたら、クールは脱兎のごとく走って逃げた。その素早さといったら。普段も人に寄り付かず逃げる猫だから、捕まったら余計である。
「やれやれ、やっと捕まえたね」
「あ~、疲れた」
夜中の猫探し、玄関での寝ずの番と4日間、寝不足である。
とりあえず、どこにいるか2階と3階を探すと、3階の本棚の奥に…。クールが人目を避けて逃げ込む時は、いつもそこだった。確認してから、リビングに戻って飲み直し。保護猫のクールを世話してくれたMさんには、真っ先に電話を入れた。
「捕獲器にかかった」
「よかったねぇ」
「捕獲器で3日目」
「上手、上手」
「えっ、そうなの?」
「捕まらないことも多いからね」
「そうなの」と言いながら、ちょっといい気分。
「保護猫だから、見つからなかったら連絡しないといけないしね」
Mさんも、本当にホッとしている様子だ。
「また逃げないように、きちんと見ていてよ」
「出そうなところはもう一度チェックして、戸締りも気を付けよう」
クールがいる3階まで上がってみた。
「もう外に出ちゃダメだよ、クーちゃん。みんな心配してたんだから」
ゆっちゃんは涙目になっている。
クールは怯えた目をして、後ずさっていたけど。
「どうして、お前はこうなのかな」
逃げようとするクールが、むしろ不憫に思えた。こうして3匹の猫が揃う、平和な日々が再びやってきた。
ところが…である。それから5カ月後のこと。ゴールデンウイークが始まろうとしていた、穏やかな日差しに包まれた春の一日の、昼前のことだった。
(峯田淳/コラムニスト)