クールボーイが再び脱走したことを、保護猫としてお世話してくれたMさんには電話で伝えた。
「クーちゃん、また、いなくなったの!?」
半ば、怒っている。
「探してもいない?どこに行ったかわからない?」
「見つかるか出てくるか、待ってたから、探すのはこれから」
「戸締りとか、してなかったの?」
「それが…」とクールの脱走経路を説明した。ベランダの植木鉢のホルダーに乗って、そこから隣家の庇に飛び乗った、その可能性が高い、と。
「ベランダに取り付ける柵のようなものと、それに垂らすネットがあるけど、それはやってなかった?」
「まさかホルダーに飛び乗って、とは考えてもいなかったから。そこまでは…。ネットは初耳」
「私のところにネットがあるから、それをすぐに送るね」
とはいっても、あとの祭りなわけだが。
「とにかくクーちゃんを探してみて。この前、隠れた空き家とかも。まだそんなに遠くには行っていないはずだから」
懐中電灯片手に、また猫探しが始まった。前回の捜索で近所のどこを見て回ればいいのかはわかっているので、まずはひと通りチェックだ。
前回、隠れた4軒隣りの空き家周辺を、何度も確認した。空き家と学習塾の裏階段、その間の塀や隙間も。だが、見つからない。
いったん家に帰って、連れ合いのゆっちゃんと作戦会議。
「前回、空き家で見つけた時に一緒にいた茶トラの猫ちゃん。あの猫がうちの周りをウロウロしていることもあるのよ」
「トラちゃんか」
「クーはトラちゃんがウチの周りいることに気が付くと、窓際へ急に駆け出したり。トラちゃんが来ないか、ジッと窓際で待っていることもあるわ」
「ジュテやガトーよりも野良、野生の猫の方が、クールとは相性がいいのかもしれないな」
「でも、大きな道路が近くにあるわけだし、外には出せない。田舎の家や大きな庭がある家なら、クーは放し飼いしてあげたいくらい」
「で、トラちゃんはどうしているのかな」
「最近も買い物の帰りに見かけたよ」
「トラちゃんを探すのもいいかもね。クーがついて歩いているかも」
「とにかく、早いとこ見つけ出して、また捕獲器におびき出す作戦しかないね」
夜中、再び外に探しに出た。トラちゃんがもし、まだ空き家を根城にしているようなら、クールも一緒にいるかもしれない。ひと通り見回ってから、空き家周辺にしばらく立ち続けた。
空き家は通りに面して玄関があり、その塀に沿ってすぐ横に、庭へと入る木製の扉があった。無断だけど、入ってみようか。扉が開くかどうかわからないままノブをひねると、動いて、簡単に扉が開いた。そっと中に入ってみる。前回、ガトーがトラちゃんとルンルンしていた庭の縁台やその下も確認し、ライトで照らしてみる。クールがいそうな気がする。
ン…?何かが動いた。猫だ。だがクールではないし、トラちゃんでもない。ガトーのようなサバトラっぽい猫が警戒して、素早く逃げていってしまった。やはりここは野良猫たちのたまり場ではないか。トラちゃんもいる、それならクールも…。
いったん不法侵入をやめ、扉を閉めたらギ~と音がして、体がビクッとなる。ヤバイ、ヤバイ。それでもクールを見つけるためには、やるしかない。
(峯田淳/コラムニスト)