サッカー日本代表専属シェフ、西芳照氏。カタールW杯前にテレビや雑誌で取り上げられたので、ご存知の人は多いだろう。練習終了時間に合わせてビュッフェ形式かつ、できたての料理を提供するだけでなく、日本代表の要望全てに応える「リアル料理の鉄人」ぶりを発揮している。
西シェフに寄せられた要望をみてみよう。
■キャプテン吉田麻也と三笘薫は「全食事グルテンフリー」にこだわっており、本戦3日前に必ず出されるハンバーグも、ツナギに小麦粉を使ったものと、米粉を使ったハンバーグの2種類を同時進行で焼いていく。
■さらに吉田は毎食、ケールを摂取。ちなみに、毎食パプリカを食べていたのは、10年南ア大会、14年ブラジル大会、18年ロシア大会と3大会連続出場した本田圭佑。
■朝晩必ず青魚料理を食べるのは、長友佑都。食事に使うオイルは、セリエAに在籍していただけあって、エキストラバージンオリーブ油かMCTオイルと決めている。しかも封を開けたての新鮮な油を使った料理しか食べない、こだわりよう。長友は筋肉の質とエネルギー代謝の向上のために「ファットアダプト食事法」を取り入れ、同食事法の本まで出版している。W杯4回出場の秘訣は、徹底した食事管理にあるようだ。
■肉の焼き方、部位まで細かい要望を出してきたのが、歴代の日本代表監督だ。シェラスコ料理が有名なブラジル出身のジーコ監督は、牛肉もも肉の牛脂を落とすよう指示。ハリルホジッチ監督は牛ヒレ肉と鶏ササミで、牛ヒレは食中毒を防ぐために、必ずウェルダン。岡田武史監督はレバーとひじき、ほうれん草という鉄分豊富な食材を毎食出すようリクエストしていた。
■日本代表に専属シェフをつけたのはトルシェジャパン以降だが、美食の国フランス出身のトルシェ監督は、フランス料理に欠かせないバターやクリームは一切使わないよう指示。3食、米飯味噌汁を出すよう要望した。
代表26人分と監督とコーチの要望を聞くだけでも目が回りそうだが、西シェフはできたてのメインディッシュを提供している上に、アルコール成分の入った調味料、豚肉を持ち込めない中東カタールで、現地調達できるもの、日本から持っていくものをリストアップし、食材の調達まで担当している。サッカー担当記者が言う。
「日本代表と西シェフには、苦く悔しい経験があるんです。04年にアテネ五輪の出場をかけた中東UAEでの最終予選で、キャプテン鈴木啓太以外のメンバーが、点滴治療が必要なほど重症の細菌性腸炎に見舞われました。鈴木はその後、腸内細菌のベンチャー企業を立ち上げていますが、UAE戦はそれだけ強烈な体験だったのでしょう。帰国後に入院した代表選手もいたほどの重篤な腸炎の原因はわかっていませんが、現地で採用した料理人かホテルの貯水槽に何か『盛られた』可能性があると言われている。UAEと同じ中東で行われる今大会は、調理用の水すら全て日本から持ち込み、料理人も厳選しています」
保存のためアルコール添加した醤油ですら、持ち込みを禁じられたというカタールW杯。我々が思っている以上に、ピッチの外では壮絶な戦いが始まっている。