開幕するまで盛り上がりに欠けていた、カタールW杯。日本がドイツに大金星を挙げて、ユニフォームを買って日本代表を応援しようと思った「にわかサッカーファン」は自分だけではないようだ。ドイツに勝った翌日、日本代表ユニフォームを扱うアディダスの旗艦店に行ったら、すごいことになっていた。
いや、客が殺到するのは想定内。同点ゴールを決めた堂安律と決勝ゴールを決めた浅野拓磨、そしてアシストした板倉滉のユニフォームが品切れなのも当然だろう。
とにかく旗艦店内のW杯コーナーの棚はスッカスカ。かろうじて残っていた長友佑都のXLサイズユニフォームを、芋洗坂係長そっくりのアラフォーサラリーマンが抱きしめている。別のサラリーマンはLサイズが売り切れか、店員に聞いている。にわかファンの自分もSサイズを手に、レジに向かった。
ところが、だ。レジに並ぶ列が、いつまでたっても動かない。待つこと20分。会計の列に並んだ客の1人もさばけていないのだ。外国人観光客がフラッと店内に入るも、行列を一瞥するや踵を返す。店員さんが客に頭を下げながら、バックヤードとレジを行ったり来たり。理由を尋ねれば「ユニフォーム、セミオーダーで入れられる選手名の在庫確認ができない」のだそうだ。
アディダスといえば、ドイツの企業。日本は1次リーグでボロ負けするため「日本代表ユニフォームは売れない」と想定していたのだろうか。大混乱だ。それもそのはず、W杯が始まるまで、アディダスはロシア市場撤退と中国市場の低迷、さらにデザイナーのカニエ・ウエストのユダヤ人差別発言もあって、22年1月から9月期の純利益は4割も減収し、経営陣の責任論が噴出している真っ最中。カスパー・ローステッドCEOは23年内の退任を発表した。創業者兄弟のケンカ別れで誕生した「弟分」プーマのグルデン氏の次期CEO内定が決まったばかりだ。トップ交代劇で社内の指揮系統がメチャクチャなのを、自分が列に並んで実感した次第だった。
ようやくユニフォームを買えたのは、来店から2時間後。外は真っ暗になっていた。1日早いブラックフライデーにヘトヘトだ。Lサイズ確認をお願いしているサラリーマンはまだ「Lサイズが残っているのか確認できない」と待たされている。「芋洗坂係長」はといえば、列半ばで同世代の長友のユニフォームを、うっとりと抱きしめ続けたまま。普通なら怒って帰るシチュエーションだが、なぜかみんな文句も言わず、表情が明るい。
オレもまだまだやれる──。日本全国、日本代表に勇気をもらったからなのだろう。