農家はこんな人々に生殺与奪の権限を握られ、いったいどう感じているのだろうか。
記者は神奈川県の三浦市へと向かった。駅から港に続く道路の左右には広大な畑が広がる。あいにくの雨模様だったが、作業を続ける農家があった。
この地域では春はキャベツ、夏はスイカ、秋、冬は大根、ブロッコリーの生産地として知られる。首都圏で消費される野菜の供給地でもある。
特に、三浦大根はこの地域の特産品であり、全国でも知られるブランド野菜である。その大根を主要な生産物としている50代の農家男性に話を聞いてみた。
「農協はなくてはならない存在ですよ。三浦ブランドとして、取りまとめて売ってくれているわけだから。もちろん、個人で販売までやっている農家もあるけど、市場での交渉力が違う。私らは作り手であって、やはり商売となると、なかなか難しいよ。ただ、私らが頼りにしているのは、この地域の農協であって、安倍さんが解体だと言っているのは、私らの農協の“上部団体”の話でしょう。いろいろ問題があるから、それを正さないといけないってことじゃないの。私はそう理解したんだけどね」
結果的には骨抜きにされたが、安倍総理が取り組んでいる農協改革は、JA全中が地方の農協などから年間約80億円の巨額の運営費を集める制度や、農協法に基づく地方農協に対する権限を小さくすること。JA全中を頂点にしたピラミッド型の組織体制を改め、地域の農協や現場の農家に自由な経営を認める方向性はブレていない。
しかし、その先に待っているのは、TPPである。安価な海外の野菜が日本に入り込んでくるのだ。
「今、作っているのは7月に収穫するニンジンですが、主力は三浦大根ですからね。外国の農産物が入ってきても影響はないと思っているんだけど‥‥」(前出・50代農家男性)
ブランド力は絶大だというが、広大な農地を保有しているからこその意見なのかもしれない。実際に、付近のより零細な農家男性は違う意見を持っていた。
「正直、農協なんてどうなってもいい。TPPのほうが大問題だよ。俺たちが生き残れるかどうかが重要。あんたらの口に入るものを作っているんだから、農家だけの問題じゃないんだよ!」