大阪の吉本興業本社で行われた会見に黒いスーツ姿で登場。報道陣を前に「笑いを届ける仕事をしながら、このような事件を起こし、心よりおわび申し上げます」と謝罪したものの、その表情には「納得できない悔しさ」が滲んでいた。それが、2010年1月12日に行われた、お笑い芸人「メッセンジャー」黒田有の謝罪記者会見だったように思う。
黒田は前年12月25日、大阪ミナミのガールズバーで、25万5000円という高額の料金を請求されたことに腹を立て、男性店長に暴行。左目下を骨折させ全治2カ月の重傷を負わせたとして26日、大阪府警に傷害容疑で逮捕された。
府警によれば、黒田が4人でこの店に来店したのは、25日の午後9時ごろ。焼酎やウィスキーなどを飲んだが、午前0時ごろ、店長から請求書を手渡され激高。取り調べの結果、自分が先に髪の毛を掴むなどして手を出した、と容疑を認めため逮捕に至ったという。
「全治2カ月」のケガと言えば、相当激しい暴力行為があったと推測される。ところが、府警は黒田の釈放を前に突然、店長のケガは「打撲程度の軽傷」だったとし、「骨折」も、実は半年以上前のものであると訂正したのである。
いくらなんでも、犯罪の悪質性を左右する最重要部分を間違えるなどありえないことだが、大阪府警は取材に対し、「示談が成立しているので、お答えすることはありません」とにべもなかった。
結果的に、黒田には不起訴処分が下ったのだが、むろん手を出した黒田に非があることは間違いない。ただ、納得がいかなかったのだろう、それが、会見での何とも言えない表情に表れていたというわけである。当時、在阪のジャーナリストを取材すると、こんな興味深い証言を得た。
「実は、ここ数年のミナミ界隈には100軒近いガールズバーが乱立しているんです。府の条例で路上スカウトが禁止され、ホストクラブの営業時間も深夜1時に制限されたことで、仕事にあぶれたホストたちが、知り合いの女の子を集めて、数十万で手軽に開店できるガールズバー経営に乗り出したからです。ただ、乱立すれば当然、ボッタクリ店も増える。かねてから府警は『違法行為があれば、法令にのっとって対処する』と公言していて、いわゆる『噛ませ犬』的な事例がほしかった。つまり、今回の黒田事件の背景には、そんな警察の思惑も見え隠れしているということです」
真相は不明だが、確かにこの事件以降、ミナミのぼったくり店は影を潜め、ガールズバーからも客足が遠のいたといわれた…。
近年ではバラエティー番組などで釈放時の様子をイジられ、「あれは刑務所ちゃうぞ!警察署」「事件以来、けっこうオバちゃんが応援してくれまして」と、事件をネタにする黒田だが、その転んでもただでは起きない、したたかな芸人根性には脱帽するばかりだ。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。