まもなく3.11東日本大震災から12年が経とうとしている。被災地以外では、すでに単なる過去の出来事になっているかもしれない。しかし福島第一原発のお膝元では、見かけ上の「復興」とはよそに、解決できない傷が今もなお残されているのである。
今もあの日から「被災」が続いているといっても過言ではない場所がある。太平洋沿岸に位置する福島県の双葉町と大熊町にまたがる東京電力・福島第一原発である。
前編もお伝えしたように、同原発の1~3号機の原子炉では電源喪失による核燃料の溶融(メルトダウン)が起こり、今も収束作業中だ。しかも、メルトダウンで原子炉圧力容器や格納容器に溶け落ちて固まった核燃料(燃料デブリ)の取り出し計画が大幅に遅れ、その取り出し完了の見通しが立っていない。
同原発が抱えるもう1つの問題が放射性物質を取り除いた「処理水」問題である。
圧力容器から格納容器にかけて分布する燃料デブリを冷却するために常時、炉内に水を注入している。しかし事故を起こした1~3号機では、事故の影響で格納容器が損傷しているため、冷却水が漏れ出している。その燃料デブリ冷却後の放射性物質を含んだ「汚染水」が、原子炉建屋に隣接する発電用タービンを格納している建屋地下に滞留しているのだ。
これを放置すれば、タービン建屋地下から汚染水が溢れ出し、周辺に放射能汚染が広がってしまう。それを避け得るために東電は発災以来、汚染水を汲み上げ、多核種除去システム(ALPS)と呼ばれる機器を通して数多くの放射性物質を取り除いた処理水にし、原発構内に保管してきた。
その総量は2023年2月23日現在、132万6582平方メートル。東京ドームの容積換算で1杯強である。「1杯強」といえども、あのドーム内に入場した経験のある人ならば、いかに膨大な量であるかがわかるはずだ。これらは現在、1066基ものタンクに分けて保管されている。
しかし、福島第一原発構内の面積は当然限界があり、将来にわたって延々とタンクを増設して保管しておくわけにはいかない。
今後も難航が予想される燃料デブリの取り出し作業では、新規開発するものも含め様々な機器や構造物の設置が必要だ。これを円滑に進めるためには、こうした機器や設備を1~3号機の原子炉建屋近傍で組み立てるなどして事前試験して、実際の使用時は短距離移動で済ませるのが良策である。
しかし、そのためには敷地内で一定の面積確保が必要となる。その際、障害になるのが、この処理水タンク群の占有エリアなのだ。ここを空けることができれば、この問題も一定の解決はする。
ジャーナリスト・村上和巳