福島第一原発事故で「メルトダウン」を把握しながら、“官邸の圧力”で東京電力は公表しなかったことが明らかとなった。経営陣は早々に謝罪したが、株主総会で追及を受けた。隠蔽工作を主導した正体は何だったのか。その深層に迫る!
6月28日、国立代々木体育館前は緊迫した空気が漂っていた。多くの上場会社の株主総会が集中したこの日、同所では東京電力ホールディングス(旧東京電力)も総会を開催した。同社では11年の東日本大震災で福島第一原発が過酷事故を起こし、現在も収束作業中だ。事故直後の総会は反原発派が大挙参加し大荒れ。以後、同社の総会は「反原発派」の攻勢にさらされ続けた。
この日も会場付近は例年どおり垂れ幕を掲げた反原発派が声を上げていた。だが今年は、「日本製原発は安全です」というボードを持った、いわば「原発推進派」も多数陣取り、反原発派にヤジを飛ばす光景が展開された。そしてこの様相は会場内にまで持ち込まれた。
今年、総会を前に東電は“アキレス腱”を抱えていた。約2週間前、東電が設置した福島第一原発事故に関わる「第三者検証委員会」が報告書を公表。そこで、東電が事故直後に「炉心溶融(メルトダウン)」に陥っていたことを把握しながら2カ月間公表しなかったのは、当時の清水正孝社長の「『炉心溶融』の言葉を使わないよう」との社内指示による隠蔽が原因だったと明らかになったのだ。ただ、この件には“オマケ”もついていて「炉心溶融」という言葉を使わないよう指示した“本家”は、当時の首相官邸と推認されるとのただし書きがついていた──。
総会では冒頭、この問題を廣瀬直己社長が陳謝。數土文夫会長も「当時の社長の指示は隠蔽に当たり、信頼に背く行為だったと考えている」と明言までした。
反原発派にとって隠蔽の事実は格好の攻撃材料だが、この材料を活用したのはむしろ推進派だった。
「隠蔽問題は民主党、現・民進党の圧力によるもの。民進党の支持母体は連合だから、東電の組合は連合を脱退すべきだ」「当社に甚大な被害を与えた“プロ市民”あがりの(当時の首相)菅直人を提訴すべきだ」などと追及したのだ。
しかし、経営陣はまるで質問が聞こえなかったかのように、官邸に関わる回答を避け続けた。いったい「炉心溶融」の隠蔽は東電の単独犯なのか、官邸あるいはその他との共犯なのか。そのヒントは、すでに公表された資料から、まさに「推認」されるのだ。