先の滋賀県知事選挙はその結果もさることながら、注目すべきは「カリスマ応援演説男」の神通力がもはや通用しなくなったこと。それもそのはず、演説の内容がギャグにもならない「?」だらけの失笑モノとくれば、無理もない話か。
7月13日の投開票を目前に控えた10日、小泉進次郎内閣府・復興政務官(33)が滋賀県入り。県知事選の応援演説を、彦根駅前と南草津駅前で行った。自民・公明が推薦する小鑓(こやり)隆史氏(47)を援護すべく、マイクを握ったのだった。
進次郎氏といえば、演説の巧みさ、パフォーマンス、人気は政界随一。これまで数々の応援に駆り出され、「実績」を残してきた。だが、この日の進次郎氏は何かが違う。彦根駅前での応援演説を再生してみよう。
「アベノミクスの3本の矢、小鑓隆史の3本の槍と言われますが、小鑓さんの槍は私から言わせれば『思いやり』の『やり』なのです」
「3本の槍」とは、小鑓氏が「滋賀経済に活力を取り戻す」「女性、若者、高齢者の力を活かす」「社会資本整備をやり抜く」という3つの公約を自身の名前にかけ、訴えたもの。進次郎氏は、小鑓氏が6歳の時に母親を亡くした境遇から、「子供たちが家庭環境によって、教育の機会を平等に与えられることがなければ、日本の将来はない」と思ったことを例示し、こう続けた。
「この実体験を通した、子供に対する、教育に対する思い、これが小鑓さんの1つ目の『やり』なのです」
‥‥? 「3本の槍」にはそんな政策は見当たらないのだが‥‥。
しかし、進次郎氏はおかまいなしに畳みかける。母親を亡くした小鑓氏が小学生の時にカゼをひくと、近くに住む祖母が看病に来てくれたエピソードを紹介し、
「2つ目の『やり』が高齢者に対する『思いやり』。そのおばあちゃんの思い出の中で、小鑓さんがいちばん記憶に残っているのは、おばあちゃんが作ってくれたきつねうどんです。そのきつねうどんを国家公務員という形で、国の中で、ひとりひとりきめ細かく、老後を暮らしていけるような福祉の体制を整えないといけない。そういった思いにつながっていくわけであります」
おばあちゃんのきつねうどんがきめ細かい福祉の体制整備につながる‥‥? どうも意味がわからない。これは「思いやり」の「やり」ではなく「無理やり」の「やり」ではないのか。そして進次郎氏の珍説はどんどんエスカレートしていく。
「3つ目の『思いやり』。皆さん、小鑓隆史という名前を見てください。『こやり』の『こ』には3つの『こ』があると思っています。1つ目の『こ』は、先ほど私が言った『子供に対する思いやり』だから『こやり』」
3つ目の「やり」が「こ」にスリ替わり、双方が混ざって何が何だかわからなくなってきた。
「2つ目は、高齢者に対する思いやりだから『こやり』。3つ目の『こ』は何か。滋賀県の琵琶湖の『こ』。琵琶湖は滋賀県が持つ歴史や文化の象徴なのです」
これはいったい何なのだろう。いよいよネタがなくなった末の、苦し紛れの言葉遊びはギャグにもならず、聴衆からは失笑が漏れるスベリっぷり。だが、
「小鑓さんの『こ』は小さいですから。小さい思いやりで『こやり』」
などと、あくまで言葉遊びにこだわるのだった。
この演説を聞いていたジャーナリストの横田一氏が、アキレ返って言う。
「嘉田由紀子知事とその後継候補である民主党・三日月大造氏(43)が『琵琶湖を守るために、大飯原発再稼働はすべきではない』と、卒原発を訴えているのに、原発問題は語らず。さらに、争点となっている集団的自衛権にも一切触れなかった。演説後に彦根駅前で進次郎氏を直撃して、その理由を聞いても無言を貫き、そばにいたスタッフが『警察を呼びますよ!』と警告してくる始末でした」
結果、三日月氏が当選し、小鑓氏は敗北。進次郎氏の「何じゃそりゃ?」な迷演説が効いたのか‥‥。全国紙政治部デスクが言う。
「今年2月の都知事選で、父・小泉純一郎氏が自民党の方針に真っ向対立する形で、即原発ゼロを訴えて細川護煕氏とタッグを組んで以降、進次郎氏に向けられる自民党内の目は冷ややかです。以前のような神通力はなくなってきており、応援に来たからワーワー盛り上がってブームが起きるということもありません」
落語を聞いてトーク術を勉強するのはいいが、肝心の政策論抜きでは失笑しか生まれないのである。