3月18日から始まった選抜高校野球大会、高校生にとっては3年ぶりに声出し応援も解禁された球春到来だ。ところが開幕戦の1回表、いきなり審判が甲子園球場を凍り付かせた。
東北高校の先頭打者が相手チーム山梨学院の内野手を強襲、失策がらみで出塁した際に1塁ベース上で行ったペッパーミルパフォーマンスを、塁審が「制止」したのだ。
「(WBCで)野球界が盛り上がっているのに、ストップがかかった。なんでこんなことで、子供たちが楽しんでいる野球を大人が止めるのかなと。そこは嫌というか、変えた方がいいと思った。日本中が盛り上がっているパフォーマンスを、審判の方から注意された。私の方に火の粉が飛んできてもいいので、それは大反対。もう少し、子供たちが自由に野球を楽しむという方向もちょっと考えてもらいたい。 一塁審判がベンチまで来て、これは絶対ダメ、パフォーマンスはダメですと。ダメな理由を聞きたい」
元巨人内野手で同校OBの佐藤洋監督は、試合後にそう高野連と記者団に問いかけた。WBCで活躍するダルビッシュ有や元シアトル・マリナーズの佐々木主浩氏も同校OBで、高校生からすれば偉大な先輩に憧れ、メジャー流パフォーマンスを真似したくもなるだろう。
佐藤監督が高野連に苦言を呈した背景には「子供の野球離れ」がある。昨夏、日本高校野球連盟が公表した野球部員数と加盟校数は、前年度から3023人減の13万1259人。8年連続で減少している。加盟校数も33校減って3857校で、実際に夏の地区予選に出たのは2校、3校の合同チームをカウントした3547校だ。実質的に夏の地区予選参加校は、8年前より1000校減の3000校前後とみられている。
高校サッカーは、高校野球よりもひどい。日本代表メンバーの三笘薫や堂安律は、Jリーグ下部組織の育成選手だ。久保建英が所属したスペインのFCバルセロナ傘下のバルサアカデミーも、2009年に日本に進出。今や福岡、奈良、東京、横浜、広島で開校している。小学生が世界水準のサッカーを体験する今春の同アカデミーのサッカーキャンプも、キャンセル待ちの大盛況だという。小中学校で優秀な子供はこうしたクラブチームに所属するので、優秀な選手が高校サッカー部には入ってこない。
高校野球も「夏休みを利用して」アメリカやカナダに短期留学、米国国内の大学のセレクションを受ける高校生が増えてきた。それは夏の地区予選よりもアメリカの大学リーグやメジャー、マイナーリーグの雰囲気を経験することに価値を見出す高校球児が増えたことを意味している。
都内の英会話教室に通い、今秋からアメリカの高校に留学予定の高校球児が、夢を語ってくれた。
「甲子園に出るのは、自分の努力だけではどうにもなりません。それより、米メジャーリーグの雰囲気に触れたい。僕自身がメジャーで通用するのか、機会があれば試してみたい。甲子園で活躍しても、その後は野球から離れている人は多いですね。アメリカの大学で授業についていけるだけの語学力を身につければ、スポーツビジネスやトレーナーなど、一生涯、野球に関わる仕事ができます」
高野連と主催の毎日新聞社、朝日新聞社が子供達のパフォーマンスまで指導すること自体が、大きなお世話だ。子供達は規制だらけの高校野球などに見向きもせず、アメリカを目指し続けることだろう。
(那須優子)