日本シリーズ直前、巨人を揺るがす大スキャンダルが勃発した。「江川ヘッドコーチ」を水面下で画策する「最高権力者」に球団代表が憤激し、みずから告発会見を開くクーデターを起こしたのだ。前代未聞のお家騒動。その背景には「盟友」から託された「3年後に江川監督誕生」の悲願があった─。
巨人の元オーナーにして、球界に強大な影響力を持つ最高権力者。巨人は長年にわたり、事実上、渡辺恒雄球団会長(85)に支配されてきたと言っていい。11月11日、そこに猛然と斬り込んだのが、清武英利球団代表兼GM(61)だった。
突然の会見─。清武代表は冒頭から、渡辺会長の大批判を展開した。
「私は一昨日、11月9日、読売新聞社の主筆であり、読売巨人軍の取締役会長である渡辺恒雄氏から、『巨人軍の一軍ヘッドコーチは江川卓氏とし、岡崎郁ヘッドコーチは降格させる。江川氏との交渉も始めている』と言われました」
寝耳に水のこの人事が99.9%の確率だと聞かされたという清武代表は、次のように続けた。「私と桃井オーナーは10月20日に読売新聞本社の渡辺会長を訪れ、岡崎氏がヘッドコーチに留任することを含む、コーチ人事の内容と構想、今後の補強課題を記載した書類を持参して報告し、渡辺氏の了承も得ていたのです。にもかかわらず、渡辺氏は11月4日夜、記者団に『俺は何にも報告聞いていない。俺に報告なしに勝手にコーチの人事をいじくるというのは、そんなことありうるのかね。俺は知らん。責任持たんよ』という発言をされています。しかし、それはまったく事実に反することです」
こうした渡辺会長の「不当な人事介入」について清武代表は、「オーナーやGM制度をないがしろにするだけでなく、内示を受けたコーチや彼らの指導を受ける選手を裏切り、ひいてはファンをも裏切る暴挙」と激しい口調で断罪したのだ。「巨人の歴代の球団代表は皆、渡辺会長に対し、コメツキバッタのようでした。今回、清武代表が初めて公然と反旗をひるがえしたんです」
こう語るのはスポーツ紙デスクである。
「藤田元司監督の時代あたりから、渡辺会長は人事に口出しを始めました。藤田監督も嫌々ながら、渡辺会長にコーチ人事のお伺いを立てていた。中畑清氏をコーチとして招聘するという渡辺会長の希望を受け、藤田監督がしぶしぶ、交渉をさせられたこともありましたね。巨人という球団では昔から、実質的なGMは渡辺会長なんですよ」
確かに渡辺会長は事あるごとに、トレード、監督とコーチ人事、外国人補強、選手の契約問題など、さまざまな件に関して口を挟んできた過去がある。いや、球団内の問題のみならず、球界再編や球団新規参入、ドラフト制度など、球界全体の案件についても独断的かつ高圧的な放言を繰り返し、影響力を誇示してきた。
清武代表はこうした「独裁」に終止符を打つべく動いたわけだが、会見前には40分間ほど、渡辺会長に「直訴」の電話をしている。「オーナーを飛び越えてものを言うやり方では、チームはいったい誰が統制を取るのか。そういう話も繰り返ししましたが、基本的な話は変わりませんでした」(清武代表)
ところが、清武代表の会見に対し、「味方」だったはずの桃井オーナーは、岡崎ヘッドの留任について渡辺会長の了承を得たことは認めたものの、なぜか反論の言葉を発したのである。