今から15年程前、殿が沖縄に1泊2日で行かれた仕事がありました。その“小旅行”に付き人として同行したわたくしは、人生初の沖縄上陸で、1人勝手にテンションが上がり、とにかくワクワクしていたのをよく覚えています。
昼過ぎに沖縄に到着された殿は、休むまもなく仕事をこなされ、夕方17時には、沖縄での全ての仕事をフィニッシュされると、一旦ホテルへ戻り、しばし休憩をされた後、夜、スタッフの方々と食事をとるため繁華街へと繰り出したのです。そして、おいしい食事とお酒を堪能した殿は、
「なんか疲れたな。俺はもうホテルに帰って寝るけどよ、お前らはせっかく沖縄に来たんだから、○○さんたち(スタッフさんの名前ね)を誘って飲んで来いよ」
と、わたくしとマネジャーに指示を出されたのです。さらに殿は、
「俺の財布から飲み代は使っていいからよ。どっか楽しそうなとこ行ってこいよ」
といった、抜群な発言を言い放ち、ホテルの部屋へと戻っていかれました。
で、スタッフさんと落ち合い、都合6名にて、さっそく殿の仰せのとおり、再び繁華街へとテンション高く繰り出したのですが、人間とは恐ろしいもので、殿の財布を握りしめ、はしご酒をし、酔えば酔うほどに、財布の中のお金がまるで自分のお金のように思えてきてしまい、「せっかくの沖縄ですから、今日はぱーっと行きましょう! お金なら任せてください!」と、行く先々で大変下品にはしゃぎまくり、気がつけば、キャバクラ的な店を都合4軒もハシゴしてしまい、そのどの店でも、ヘネシーのボトルを義務のように入れ、それら全てのお代を殿の財布からちゅうちょなく払いまくり、気がつけば朝5時過ぎまでの大宴会となってしまったのです。
で、朝7時過ぎ、かつて経験したことのないほどの二日酔いを抱え、殿を起こすため、殿の部屋の前でマネジャーと落ち合い、改めて預かっていた財布の中身を最終確認したのですが、明らかに財布の太さが変わっており、さらに昨晩の飲み代を冷静に計算すると、軽く中古の軽自動車が買えるほどの金額で、二日酔いが一気にぶっ飛ぶほど驚愕したのです。そして、〈この恐ろしく薄くなった財布をお返しするのか。やばいな〉と、ビビりながらも、帰りの飛行機の時間もあるため、呼び鈴を鳴らし、殿の部屋へ入っていくと、寝ぼけた様子の殿が、わたくしたちの顔を見るとすぐさま、
「昨日は何時ぐらいまで飲んだんだよ」
と、聞いてこられたのです。
「はい。朝3時まで飲んでました」と、なぜか実際より2時間も短く報告をしたわたくしに殿は、“あっそうだ”といった感じで、
「おい、ちょっと財布貸してくれよ」
と、一番聞きたくなかった言葉をただちに発したのです。で、言われるままに財布をお渡しすると、殿は財布を持った瞬間、
「また随分と軽くなったな」
と、まずは漏らし、すぐさま財布の中身をチラッと見ると続けて、
「しかしお前たち、飲んだな~」
と笑いながら発すると、もうその後は、何事もなかったように、また財布をわたくしに預けられ、殿は洗面所へと歯を磨きに消えていかれたのでした。