無冠が濃厚のエルドレッドは7月終了時点では50本の大台も狙えるペースで本塁打を量産しながら、8月は結局1本もアーチを放てませんでした。ボールとの「間」が取れず、まったく見極めができない状態で28試合連続三振の不名誉な球団記録も作りました。
打撃のリズムが狂うと、ごまかしが利かないのがホームラン打者の怖さです。ヒットを打つだけでいいのなら、ここまで深刻なスランプに陥ることはなかったはずです。ボールをバットにさえ当てておけば、調子が悪くても内野安打やポテンヒットが出るので、そのうちに調子も上がっていくものです。
しかし、エルドレッドはホームランを求められています。彼ほどのパワーがあっても、軽打ではホームランになりません。しっかりと強いスイングをする必要があるのです。そこに落とし穴が待っています。調子を崩すと、「もっと強く振らなければ」と強迫観念にかられます。すると、バットに当たる確率がさらに低くなり、ヒットすら出なくなっていくのです。
優勝争い佳境の、重たい試合で三振ばかりの粗い打撃をされると、広島らしい野球ができません。再び二軍で自分を見つめ直す時間を与えられたエルドレッドですが、ここまで打撃が狂うと、今シーズン中の復調は相当厳しいと言わざるをえないでしょう。
そのエルドレッドに打点で並んだゴメスは、アクシデントさえなければ来日1年目でのタイトル獲得がほぼ確定です。3位の山田とは8月終了時点で18点差。残り1カ月で差を詰められるとしても10点強まででしょう。
ゴメスもエルドレッドと同じように三振が非常に多い打者なのですが、彼の場合は三振の多さが目立たない珍しいタイプです。なぜかというと意外と幅広いコースを打っていて、もろい印象が薄いのです。例えばゴメスに対する定番の攻めは、外角低めのボール球になる変化球で空振りを奪うことです。でも、時には完全にその球を見切って見逃したり、長いリーチを生かして右方向へ打ち返してしまう時があるのです。
そうなると、投手にはプレッシャーがかかります。もっと厳しいコースを突かなければと、力めば力むほど失投につながるのです。スイング自体もバットが体に巻きついて、ヘッドが遅れてくるタイプですから、エルドレッドより当たる確率は高くなります。3番の鳥谷、5番のマートンに助けられている面もありますが、4番打者として合格点を与えられる成績です。
投手のほうでは最多勝争いが大激戦です。8月終了時点でのトップが阪神・メッセンジャー、DeNA・久保、井納の11勝です。最終的には15勝前後の決着となるのではないでしょうか。本来なら巨人・菅野、広島・前田あたりは13~14は勝っておかないといけないのですが、それぞれ9勝と10勝です。各チームのエースの勝ち星が増えないことからも、力が拮抗したペナント争いの激しさがうかがえます。
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