今、医療関係者の間で物議を醸している報道がある。それは「Smart FLASH」が5月31に配信した「ワクチン接種医師『時給18万円』の衝撃…財務省資料でわかった『コロナで病院が大儲け』のカラクリ」というものだ。
この記事は、本サイトでも取り上げた、財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会が鈴木俊一財務相に提出した「意見書」に言及している。
〈コロナからの正常化を進める中で、改めて今後の医療の在り方を議論すべき時〉とする意見書は、新型コロナワクチンの〈集団接種単価及びコールセンター単価にバラツキが生じ〉たと例示しているという。
参考資料には「集団接種単価とコールセンター単価」があり、接種を担当した医師の時給は3404円が最小であり、平均が1万8884円。驚くべきは、最大で17万9800円との記述があることで、意見書によれば〈一部、著しく高額になっている自治体もある〉のだという。
新型コロナワクチン集団接種と、自宅療養者向けのコールセンター業務の時給が「法外」であると断じているのだ。
筆者は「高額な時給のお仕事」をしていた医師や看護師と共に働いていたので、断言する。「東京都の離島に暮らす人達へのワクチン接種や健康相談にあたる離島出張も時給に換算するのは、あまりに悪意がある誤報だ」と。
医師の時給17万9800円の内訳は、都庁から1000キロ以上離れた小笠原諸島の住民へのワクチン接種や、東北地方の工場への職域ワクチン接種の「日当」を時給換算したにすぎない。
ワクチン業務にあたった勤務時間は、医師も看護師も午前中の3時間程度。だが、まる1日以上かけて小笠原諸島に移動し、帰りの船が来るまで島に足止めされるわけだから、医師と看護師には拘束時間、移動時間も含めた「日当」が支払われるのは当然のことだろう。一見、好待遇に思えるが、帰りまでの拘束時間が長く、割に合わないと言える。離島医療にあたる医師への「出張報酬50万円」の何が悪いのか。
財政制度等審議会の意見書も、現役世代が育児できるよう、手取りを増やすことが主題だ。むしろ医師や看護師が受け取るべき正当報酬を「高い」と叩く報道やその読者こそ、医療従事者だけでなく、サラリーマンに支払われる正当な対価、賃金値上げの足を引っ張っている。
そして安全地帯にいる医師兼ジャーナリストから、麻疹か結核かコロナかインフルかわからない患者を診ている医師が「医療を産業にするな」と批判される筋合いもない。
新型コロナの大波に、テレビCMでお馴染みの美容クリニックの医師たちも昼食、夕食を食べるヒマなく死に物狂いで発熱患者の診療にあたっていた。患者のために働く医師や看護師の正当報酬を吸い上げる悪徳病院経営者や派遣業者に問題があるのに、現場を知らずに叩くから、トンチンカンな正義感だけが暴走している。
それでも「医療で金儲けをするな、産業にするな」と言うのなら、自分がボランティア、無償でコロナ診察やワクチン接種にあたればいい。他に相談できる医師もいない離島で、たったひとりで患者に向き合う診療スキルと勇気があるのなら、の話だが。
(那須優子/医療ジャーナリスト)