絶対王者らしくない対局だった。藤井聡太七冠は8月15・16日の両日、佐賀県嬉野市で行われた「王位戦」第4局で挑戦者の佐々木大地七段に敗れ、シリーズ成績を3勝1敗とした。
奇襲があったとはいえ、挑戦者の角でグイグイいく常勝戦法を防げなかったのは、AI将棋の寵児である藤井七冠らしくなかったが、対戦を中継していたABEMAのインタビューで、藤井七冠は敗因となった佐々木七段の角打ちを「ちょっと見落としていて」「打たれてみると、どうしても飛車が取られてしまう形で厳しかった」と振り返っている。
初日の封じ手も封筒のノリの付け方が甘く、佐々木七段が慌ててスティックのりを付け直す場面も。さすがの藤井七冠も、猛暑で疲れているのだろうか。将棋関係者が言う。
「終盤も佐々木七段の角を見落としていたのか、そのまま投了となりました。羽生善治・日本将棋連盟会長ですら、七冠時代の防衛期間はわずか167日。棋聖タイトルを手放した際には悔しさを滲ませるというよりも、表情を崩して『通常(の生活)に戻れるのでホッとした』と語ったほどです。藤井七冠の場合はさらに7つのタイトル防衛に加えて、八冠挑戦中ですから。それでも藤井七冠がすごいのは、負けた第4局、対局時間が短くなったことをしきりに残念がっていたこと」
苦しい展開でも将棋を楽しんでいたというのだ。この鋼メンタルを持ち併せているのは、キャプテン翼か大谷翔平か、藤井七冠ぐらいだろう。
佐々木七段は長崎出身。師匠で同じく長崎出身の深浦康市九段も、対局に駆けつけた。地元九州開催に、佐々木七段の気迫が勝ったということなのか。
次回の王位戦第5局は8月22日と23日、徳島市で開かれる。さらには、前人未到の八冠に挑戦する永瀬拓矢王座との王座戦5番勝負も8月31日に、神奈川県秦野市で始まる。
第4局は嬉野市名産の茶葉を使った抹茶スイーツが実に美味しそうだったが、第5局で出されるであろう徳島名物のスダチもしくは和三盆のスイーツで、藤井七冠も佐々木七段も鋭気を養ってほしい。