1955年にフランスのアマチュア化石収集家フランシス・タリーによって発掘され、長い間、その存在が謎のベールに包まれてきた奇怪な古代生物がいる。「タリーモンスター」がそれだ。
正式学名は「トゥリモンストゥルム」。このモンスターは、米イリノイ州にある石炭紀(3億5920万年~2億9900万年前)の地層で発見された。珍しい化石である「メゾンクリーク生物群」の中でも、ひときわ異彩を放つ存在だった。
というのも、この生物、体長は10センチほどなのだが、胴体から尾にかけてはシャベルを思わせ、そこから象の鼻のような首が伸び、その先にはワニのような口がついている。…と、説明を聞くだに混乱してくる風貌だ。
さらには、胴体から突き出す細い棒の先端には、目のようなものがついている。ますますわからなくなってくるが、とにかく極めて奇妙な形状なのである。
当然ながら、他のどんな動物とも形状が異なることから、研究者の間ではタコやイカなどの軟体動物説、ゴカイやミミズといった環形動物説など諸説が提唱されるもの、どれも今ひとつ決定打に欠けるのだった。そこに「新説」が舞い込んでくる。
「2016年、米イェール大学の研究チームが、それまで消化管と考えられていた薄色の帯は『脊髄』にあたる神経の保護器官『脊索』である可能性が高い、との結果を発表。この器官が脊椎動物の成長のごく初期に見られることから、脊柱動物であるとの説が一気に広がったというわけなんです」(古代生物に詳しいサイエンスライター)
しかし、このほど東京大学の研究チームが、化石153点とメゾンクリーク生物群の化石75点を3Dレーザースキャンし、体の構造を詳しく調べた結果、タリーモンスターに脊椎は存在せず、したがって無脊椎動物であることが新たに判明したのである。
この研究結果は「Paleontology」(2023年4月16日付)で発表され、生物学者らを驚かせたが、研究チームは今後、この生物が何を食べ、どのように移動し、いかなる環境の中で生きていたかを解明するべく、意欲を燃やしているという。
(ジョン・ドゥ)