で、殿の浅草話で必ず登場する、最高に体に悪いものといえば「ヒロポン」に極まります。殿いわく、
「俺が浅草に入った頃は、俺の上の代の芸人はみんなやってたんだから」
と回想されていました。
ちなみにヒロポンとは、正式名称を「メタンフェタミン」という、要は覚せい剤の一種であり、昭和25年までは、「疲労がポンと治る」といった口コミのもと、元気になる合法の薬として、普通に薬局などで販売されていたのです。
殿によれば、殿の上の世代の芸人さんは、合法で売られていた時期にすっかり中毒になってしまい、禁止されてからもやめられずに、闇で売ってる場所を探し回っていたといいます。
「あれだぞ。ヒロポン中毒はわかるんだから。今どこどこに行けばいいヒロポンが手に入るかって噂が勝手に入ってくるんだから。
それで俺の師匠(深見千三郎師匠のことね)があれだよ。やっぱりヒロポンがやめれなくて、王子の方にいいのがあるって噂を聞きつけて、王子中を探し回って買いに行ったんだよ。
それで臭いで、〈ここだな!〉って思った汚ねー民家のドア開けてよ。『すいません、ヒロポンあります?』って聞いたら、『は~い』って声が聞こえてきてよ、中からおでこにゴム管巻いて、こめかみに注射器刺して、頭から血たらした親父が出てきて、『あるよ~あるよ~いいのあるよ~』ってのを見て、『あっ、もうヒロポンはやめよう』て、決心したんだから」
さらに、ある先輩芸人の話も最高です。その芸人さんは、夏休みの時期に家でヒロポンを打とうとした直前、警察の手入れを受け、「待て、動くな!」となり、警察が家にガーッと入ってきたそうです。
「それで、腕に刺すはずの注射器を咄嗟に子供が飼ってたカブトムシに刺してよ。『何だよ、昆虫採集じゃねーか!』って言い張ってたら、刺されたカブトムシがえらい速さで部屋中グルングルン飛び回って。最後にポトッて落ちて死んだんだから」
何度聞いても最高です。さらにさらに、殿が見たある演歌歌手の話をどうぞ。
「そいつが歌の二番になると急に元気がなくなるんだよ。そしたら舞台の袖の方に歌いながら歩いてってよ。客から見えないように舞台袖の幕の裏に腕を出すとよ、マネジャーがヒロポンを打ってくれるんだよ。それで元気になって歌のキー1段高くなったんだから」
しかし、どの話もいちいち最高で、もう何度だって、〈殿の口から直接聞きたい!〉と、強く思うわたくしなのです。