とにかく「匿名検査」を受けてほしい。9月6日の定例会見で大阪府の吉村洋文知事が「20代女性に梅毒が急拡大している」と言及する異常事態になっているからだ。
大阪府内の「梅毒」の報告数は例年の2割増という史上最悪のペースで増えており、今年8月6日までの統計で1236人(前年同月比262人増)にのぼった。
しかも大阪の梅毒患者が異常なのは、感染者の3分の1以上を20代女性が占めていること。大阪府として、20代女性の間で急増する理由も感染経路も把握できていないというが、
「特定のパートナーから感染させられたなら、今の女性ははっきりとそう言う。つまり若い女性が『問診や診察で言いたがらない感染経路で感染している』ことだけは間違いない」(性病科医師)
とにかく梅毒が恐ろしい理由は2つある。
(1)感染しても無症状であることがあり、本人には感染の自覚がない
(2)無症状のままでも感染から10年経つと梅毒感染が原因の大動脈瘤や神経症状、脳症を発症。寝たきり、若年性痴呆になる
早期治療をせず、大動脈瘤や神経症状、脳症が発症したら、その時点で治療薬を飲んでも手遅れだ。そして梅毒感染を知らずに妊娠すると、胎児は重度の障害を負う。赤ん坊に罪はないのに、母親の因果を背負って生まれてくるのだ。
これまで患者のプライバシーと人権に配慮し、梅毒の末期状態を詳しく報じてこなかったメディアにも感染拡大の責任はある。
筆者も梅毒末期の患者は今まで2人しか見たことはないが、害虫や虫が這うという幻覚に始まり、他者との意思疎通は全くできなくなる。口からヨダレを垂らし、白目をむいて徘徊する。さらに看護師や家族に噛み付くなどの攻撃性、凶暴性が伴うと精神科の閉鎖病棟に繋がれ、一生をそこで終えることになる。今、徹底的な検査と治療をしなければ、10年後には大阪の精神科病院はパンク状態になるだろう。
梅毒末期患者が大阪の街を彷徨い、人々に噛みつくというリアルバイオハザードが現実のものとなる。大阪万博でアルバイトを募集する際、薬物と性感染症検査を義務化してもいいのではないだろうか。
今年に入り梅毒患者が増えていないのは青森、島根、山梨のみ。大阪以外の都市も決して他人事ではないのだ。
(那須優子/医療ジャーナリスト)