あのガッツあふれるプレーは、もう日本では見られないのか。DeNAのトレバー・バウアーのことである。
セ・リーグのクライマックスシリーズ・ファーストステージは、広島がDeNAに連勝し、18年ぶりの優勝を成し遂げた阪神が待ち受けるファイナル・ステージへと駒を進めた。
2試合でDeNAが敗退したことで、ファンからはため息が漏れている。というのも、第3戦までもつれれば、DeNAはバウアーが先発する予定だったからだ。
2012年にメジャー・デビューしたバウアーは、主に先発投手として活躍し、15年から19年まで5年連続2桁勝利。コロナ禍で60試合に短縮された2020年は11試合に登板し、5勝4敗ながら防御率1.73でサイ・ヤング賞を受賞した。
ところがドジャースに移籍した2021年、女性から性的暴行を受けたと告発され、同年7月2日に制限リストに入れられたことで、試合に出場できなくなってしまう。
2022年2月8日には証拠不十分として不起訴となることがわかったが、制限リスト入りの処分は継続され、4月29日にはまるまる2シーズンに相当する324試合の出場停止処分を受けてしまう。処分は後に軽減され、バウアーは2023年の開幕から出場できることになったが、「メジャー球界の問題児」のレッテルを貼られたバウアーと積極的に契約しようとするメジャー球団はなかった。在米ジャーナリストが言う。
「バウアーがDeNA入りを決断した理由はそれだけではありません。2009年、大学生時代にアメリカ代表として日本でプレーした際に日本人の熱い応援に感動し、一度は日本でプレーしてみたいという思いを抱きました。2019年に再来日したバウアーは、DeNAのトレーニング施設を見学。日本文化に感銘を受け、DeNAでプレーすることが具体化したのです」
女性とのトラブルを反省し、プレーヤーとしてだけでなく人間としての修行の意味もあって海を渡ったバウアーは、日本球界で旋風を巻き起こした。
DeNAでは19試合すべて先発で登板し、10勝4敗。防御率2.76ながら15QS(クオリティスタート)と奮闘した。ファイトあふれる投球スタイルで、DeNA投手陣の精神的支柱となったのだ。
「オールスターに『プラスワン投票』で選出されたのは、バウアーがファンに支持された証拠ですが、感動的だったのは8月25日の中日戦後のバウアーの発言でした。この試合でメッタ打ちにされた中日・近藤廉投手に対し、『どんなにいい投手でもこういう日がありますし、誰もがこういう経験をしています。このような結果に落ち込むことなく、落胆することなく、これからも前を向き続けてもらいたい』と、異例のメッセージを贈ったのです。これには中日ファンだけでなく、多くの野球ファンが感銘を受けた。バウアーが日本で人間的に成長した証しでしょう」(スポーツ紙デスク)
バウアーはしかし、8月30日の阪神戦で近本光司のゴロをスライディングキャッチした際に右股関節に違和感を覚え、その回で降板。翌日に「右腸腰筋遠位部損傷」と診断され、1軍登録を抹消された。
以降、ポストシーズン出場を目指すチームのために懸命なリハビリを行ったバウアーは、10月16日に予定されていたCSファーストステージ第3戦になんとか間に合ったのだが…。前日に終戦し、バウアーが今季復活する機会は潰えてしまった。
DeNAは全力で慰留する方針だが、バウアーの先行きは不透明。資金力のあるソフトバンクが、獲得に向けて調査を開始しているという。
「10月2日に当該女性との和解が成立した。暴行疑惑は女性が金銭目的ででっち上げたものだった、との報道がありました。今季の成績を鑑みて、バウアーを獲得しようというメジャー球団が出てくるかもしれない。バウアーがどんな選択をするのか、目が離せません」(前出・スポーツ紙デスク)
このままバウアーのプレーが日本で見られなくなるとしたら、残念としか言いようがない。
(石見剣)