裁判官の辞書には「寿命」と「社会正義」の文字はないらしい。
2021年7月、広島市佐伯区の介護施設で90代の入所男性が、ゼリーを喉に詰まらせて窒息死。これは施設職員が男性の誤嚥を防ぐ義務を怠ったことなどが原因だとして、死亡男性の長男が社会福祉法人に3465万円の損害賠償の支払いを求めた訴訟の判決が11月6日、広島地裁であった。大浜寿美裁判長は、
「ゼリーを配る職員は他の利用者に配膳し、男性が誤嚥する様子を見ていなかった」
「職員らが食事の介助などの措置を講じていれば防げた」
「誤嚥を防止する措置を講じる義務を怠った責任は極めて重い」
という「後出しジャンケン」で施設側の責任の一部を認め、社会福祉法人に2365万円の支払いを命じた。
これが保育園や障害者施設で起きた事故なら、保育士や職員の責任を問われるのはわかる。が、90代の高齢者が自分でゼリーを食べていて絶命するのは、さすがに寿命だろう。これでは介護職なんて誰もやらなくなる。
この大浜裁判官が国民をアッと言わせる判決を出したのは、今回が初めてではない。昨年10月には、保育園児だった頃から中学2年生までの約10年間にわたり、父親に性的虐待を受けていた広島市の40代女性が、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症したとして、70代の実の父親に損害賠償約3700万円を求めた民事訴訟の判決があった。
大浜裁判長は不法行為から20年で賠償請求権が消滅する、民法の「除斥期間」を理由に、被害女性の請求を棄却。実の娘に性的虐待を繰り返した鬼畜に「無罪判決」を出したのである。
女性は判決を不服として、広島高裁に控訴。今年9月に控訴審が結審した際には、
「自分でも分からないもの(PTSDの感情)を、裁判官が分かってくれるのか。裁判が終わっても、分かってくれるまで言い続けないといけないのか」
と、裁判官の無理解による二次被害と絶望感を訴えた。
父親の支配下の中で10年も性的虐待を受け、まだ未熟な体も心も病んだ14歳が父親を訴えることなど不可能で、機械的に20年という年月で区切った非情な判決には、さすがに首をかしげたくなる。控訴審は11月22日に判決が出る予定だ。
筆者が新型コロナの仕事をしていて、最もモンスター患者が多かった職種が、裁判官だ。大声で法律を読み上げて、看護師や保健師を恫喝する。咳が出ていてもマスクをせず、病院に押しかける。法律論を畳みかけ、熱が出ていても裁判所に行くと言い出す。薬をもらえないのは自分の意にそぐわないと、医師を怒鳴りつける…。裁判官たちの他人へのリスペクトと思いやりを欠く言動には、唖然とした。
日本の裁判官が良心を失っているとしたら、裁判官なんて全員罷免して人工知能が裁き、裁判員が監視した方が、国民感情に近い「大岡裁き」が出るのではないか。
(那須優子/医療ジャーナリスト)