それからというもの、毎週土曜の楽屋にて、何だかんだと文句を言いながらもそのドラマを見るのが殿の日課となっていきました。
ところが、ある土曜、いつもどおりチャンネルを合わせると、特番のためドラマが休みだったことがあったのです。すると殿は、
「何だ、今日はやってねーのか! ちきしょう」
と、実に残念そうにつぶやかれていました。
それから2カ月程が過ぎ、例のドラマがついに最終回を迎えるに至っては、
「なんだ、もう終わっちまうのか? スペシャルか何かでまたやる予定はねーのか?」
と、すっかり“新体操ドラマ中毒”になっていた殿がいたのです。
そんな殿の姿を、わたくしたちも少しからかい、「たぶん日本で一番熱心な視聴者は殿でしたね」などと、面白がってツッコむと、
「来週から何を生きがいにすればいいかわからない」
「実はあのドラマの映画化権を買おうと思っている」
等々、“確かに俺はあのドラマに夢中だった”といった心情をしっかりと笑いに変えて語る殿なのでした。
で、殿とのこんなやりとりが繰り広げられる楽屋に、必ずあるのがさまざまな方から届けられた殿への差し入れです。
多忙な殿は、ニュースキャスター本番前の空き時間に、特番などの打ち合わせを済ませることが多いのですが、こういった時、必ずと言っていいほど、打ち合わせをされるスタッフさんは、殿に菓子折り的なお土産を持参されます。
つい先日も、某テレビ局の方々が、殿との打ち合わせに来られ、大変存在感のある菓子折りを手土産に持参されましたが、殿は打ち合わせが終わり、スタッフさんらが帰られるとすぐ、
「おい、あいつら何持ってきたんだ?」
と、“さっきから気になって仕方がなかった”と言わんばかりに付き人に菓子折りの包装紙を開けるよう命じると、包みの中から大変おいしそうな大福餅が顔を出したのです。
殿は、「お前らも食べろよ」と周りに勧めてから、その大福を手に取りほおばりました。しかし、
「何だこれ! やけにすっぺ~な。アンコ腐ってねーか!」
と吐き捨て、一度口に入った3分の1程の大福をティッシュに吐き出すではありませんか。こうなると楽屋は途端に、〈腐ってる? まじか!?〉といった、疑心暗鬼な空気が猛烈に漂いだし、すぐさまわたくしが“それ”を確かめるべく大福を手に取り口に運ぶと、腐ってるも何も、それはただのおいしい「いちご大福」だったのです‥‥。