かつて井口氏が在籍したホワイトソックスは、力と力のぶつかり合いを重視する従来のメジャー式野球とは一線を画す、緻密な全員野球「スマートボール」でWS制覇を成し遂げた。しかし近年の「フライボール革命」以降、メジャーは再びパワー偏重に傾いているようにも思える。それは多くの日本人選手にとって不利にはならないのか。
「アメリカだけでなく日本もトレーニングが進化し、選手はみんな体が大きく、球も速くなってきている。野球そのものは、日本もアメリカも変わっておらず、国籍による有利不利は、そこまでないと思っています。
それよりも僕らの時代から最も大きく変わったのは、技術論やデータ利用の部分。アメリカは日本よりも10年は先に行っている。日本人選手はそれに対応する必要があります」
日本でも名を高めたのが、シアトル郊外の施設「ドライブライン・ベースボール」だろう。野球を科学的に分析して最適解のプレーを追求することを目標とし、NPBのチームや選手も近年、こぞって利用している。井口氏いわく、メジャーには野球未経験者のドライブライン職員を専門スタッフとして雇うチームも増えているのだとか。
「今やどの球団にもデータ分析のプロ、アナリストがいます。例えば投手なら、投げた球を分析して、球速、球の回転数で、自分が今どういう状態なのか、改善点が何なのかがわかります。バッティング面でも、ドジャースは今年のキャンプ中からすごい機械を導入して、大谷なんかはもう、練習をその機械でしかやっていないんですよ。スイングのスピードや軌道をチェックして、理想のスイングとどう違うかをチェックするんです。それに投手のデータを入力して、まったく同じ球種、球速、回転数の球を再現して投げるマシンまであります。試合前、その日に投げる投手と同じ球で練習できるんです。守備時間中にも利用できるので、DHの大谷にはもってこい。
つまり今の野球は、お互いの長所も弱点も丸裸になってしまう。プレーが全部データ化された上で、そこから駆け引きをする時代なんですよ。例えば大谷の場合、データ上ではインハイが弱い。攻められるのがわかってるから、それを狙うのかどうするのか、といった感じなんです」
ちなみに「10年以上先」というアメリカに対し日本の現状はどうか。
「投球や打球の軌道を計算して数値化する『トラックマン』というマシンが3年くらい前にロッテにも導入されましたが、それがあっても、数字を扱えるアナリストがいなきゃいけない。日本では球団に3〜4人しかいないのに対し、メジャーは20人くらいいるんです。日本はその環境下で、選手やコーチ全員に落とし込めるかというと、なかなか難しい」
それでも今後の日本野球の向上、あるいは日本人選手がメジャーで成功するためには、絶対に無視できない分野のようだ。